研究

肺がん手術とリスク評価

1.肺がん手術とリスク

肺がん手術を実施するにあたり、そのリスク評価として肺切除術の手術に関連する合併症や手術死,手術から時間を経た時期の身体機能を十分に考えておく必要があります.つまり、手術を行う場合に起こりうる病気などを術前に予測して予防的な対策を講じるということです。手術予定患者さんの身体の状態は手術リスクに大きな影響を与え,特に心臓と肺の能力(心肺機能といいます)は重要です.また,心血管系のリスク(特に動脈硬化性心臓血管障害)を疑った場合は積極的にその評価を行うべきであると考えられています1)

2. 手術前の評価

当科では、肺がんに対する手術を行う予定の患者さんには、心肺機能を判断するために呼吸機能検査(肺活量などを詳しく調べる検査)、負荷心電図検査、心臓超音波検査を受けていただいています。その中でも、私たちが注目しているのは冠危険因子です。これは、狭心症や急性心筋梗塞といった冠動脈疾患を引き起こすリスク因子のことです。冠危険因子の数が多ければ多いほど冠動脈疾患を起こしやすく、少なければ少ないほど冠動脈疾患を起こしにくいことが知られています。具体的には、加齢、性別、家族歴のように自分の意志では修正不可能なものと、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、運動不足のように修正可能なものとがあります。私たちは、これらの因子のうち、①喫煙、②糖尿病、➂脂質異常症、④高血圧、⑤狭心症などの家族歴がある、の5因子に注目しました(図1)。そして、肺がんの術前のリスク評価の段階で、これら5因子のうちいくつの因子を持つ方が負荷心電図検査を受けたほうがいいかを検討しました。その結果3因子以上を持つ方は負荷心電図検査で異常の見られる可能性が高いことがわかりました(図2)2)

図1  冠危険因子数と負荷心電図検査で異常を見つける確率

図2 冠危険因子数と追加の心臓検査が必要となる確率

3. 当科の取り組み

このように、当科では一人一人の患者さんの全身をチェックし、正確で必要な術前検査と対策を行った上で肺がん治療にあたっております。

最近の関連した業績

  1. Lee A, Fleisher LA, Kirsten E, et al. ACC/AHA guideline on perioperative cardiovascular evaluation and management of patients undergoing noncardiac surgery: executive summary: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 130:2215-2245, 2014.
  2. Tamagawa S, Sonoda D, Mitsui A, et al. Selection of preoperative stress electrocardiography test for appropriate patients with non-small cell lung cancer. Gen Thorac Cardiovasc Surg 70(2): 139-143, 2022.

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