当科の特徴 ~多職種で一体となったチーム医療と安全で質の高い低侵襲手術~
呼吸器外科学 主任教授
一瀬 淳二
「呼吸器外科」というと肺を扱う外科という印象だと思います。確かに対象の大部分は肺なのですが、英語では”General Thoracic Surgery”すなわち「一般胸部外科」と言われるように、心臓と食道以外全ての胸部疾患を当科が受け持っています。主な対象疾患は、肺がん以外に、転移性肺腫瘍、良性肺腫瘍、気管腫瘍、胸腺腫やその他の縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、胸膜中皮腫などの腫瘍性疾患、膿胸、肺膿瘍、縦隔炎などの炎症性疾患、その他気胸や血胸、重症筋無力症、手掌多汗症、胸部外傷など、多岐にわたる疾患に対して専門的な医療を提供しています。
当科の特徴としては、まず多職種で一体となったチーム医療が挙げられます。当科は、呼吸器内科、放射線科と共に呼吸器センターという一つのチームを結成し、密に連携して高度な専門医療を実践しています。患者さん一人一人に合わせた最適な治療法を話し合い、集学的治療を積極的に行うことで、患者さんの予後改善を追求しています。
また、安全で質の高い低侵襲手術を日々行っています。安全性と根治性は担保したうえで、小さい傷から行う胸腔鏡手術やロボット支援下手術、肺の損失が少ない区域切除などの縮小手術を積極的に行い、できるだけ患者さんの身体への負担が少なくなるよう努めています。
呼吸器外科の未来像 ~技術革新と新規薬剤が導く最先端医療~
私が医師になったころ既に呼吸器外科の手術術式は確立しており、パラダイムシフトはもう起こらないように思えました。しかしそれから20年あまり、呼吸器外科の世界も大きく様変わりしたと感じます。胸腔鏡手術やロボット支援下手術の発展により傷の小さい手術が一般的なものになり、さらに患者さんへの負担を軽くするよう日々術式が研究されています。ドライバー遺伝子変異をターゲットにした分子標的薬や、ノーベル賞にもなった免疫チェックポイント阻害薬などの新しい薬剤は有効性が高く、これを手術の前後に使用することで治療成績の大幅な改善が報告されています。テクノロジーの発達も呼吸器外科の発展に大きく貢献しています。CT画像を3次元に再構成し、区域切除など複雑な術式に合わせて切るべき血管や気管支を提示する精密なシミュレーションが可能になっています。また手術中に特別なライト(近赤外光)で照らして蛍光を観察するICG蛍光法を用いて、切除すべき肺の範囲を確かめたり組織の血流を評価したりしています。
最近の自動車は、カーナビが道を教えてくれるだけでなく、障害物にぶつかりそうな場合は自動でブレーキがかかったり、車線を外れていればハンドルが震えて教えてくれたりと安全性能が非常に高くなっています。私は手術も同じようにもっと安全で簡単なものになるべきだと考えています。シミュレーション画像のナビゲーションにしたがって事前に計画した通りの手術を行い、手術中に重要な血管や神経があれば人工知能が認識し、誤って損傷することのないよう注意喚起してくれる、そのような拡張現実(AR: Augmented Reality)を用いた手術を近い将来に実現したいと思います。
患者さんに誠意をもって寄り添う~患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療法を追求する~
ただ、いくら最先端のロボットを使ったりテクノロジーを駆使したりしても、結局のところ外科医療は全て人間の手で行われます。外科医は常に「自分は患者さんを傷つけている」という自覚を持って働いています。だからこそ、できる限り患者さんにつらい思いをさせたくない、一刻も早く問題を解決して元の生活に戻ってほしい、そう願っています。これからも、患者さん一人ひとりに誠意をもって寄り添い、現状に満足することなく、多職種で連携して常により良い治療法を探求し続けていきます。
略歴
学歴
- 2004年3月
- 東京大学医学部医学科 卒業
- 2012年4月
- 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻博士課程入学
- 2016年3月
- 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻博士課程修了
学位 博士(医学) 東京大学 甲 第4711号 2016年3月24日
ヒト非小細胞肺癌におけるmRNA 3’非翻訳領域の短縮と腫瘍の悪性度の関係
職歴
- 2004年4月
- 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 外科系前期研修医
- 2006年4月
- 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 外科系後期研修医
- 2008年10月
- 東京逓信病院 第二外科 医員
- 2010年1月
- 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 呼吸器センター外科 専攻医
- 2012年4月
- 東京大学医学部附属病院 呼吸器外科 病院診療医
- 2015年4月
- JR東京総合病院 呼吸器外科 医長
- 2016年1月
- 東京大学医学部附属病院 呼吸器外科 病院診療医
- 2016年4月
- がん研有明病院 呼吸器センター外科 副医長
- 2021年4月
- がん研有明病院 呼吸器センター外科 医長
- 2025年12月
- 北里大学医学部 呼吸器外科学 主任教授
専門
- 呼吸器外科学全般、特に低侵襲手術
専門医など
- 日本外科学会 外科専門医・外科指導医
- 日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医
- 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
- 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医
- 日本呼吸器外科学会 胸腔鏡安全技術認定医
- 日本呼吸器外科学会 ロボット支援手術プロクター
- 日本肺癌学会 暫定指導医
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 肺がんCT検診認定機構 肺がんCT検診認定医師
- 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 結核・抗酸菌症認定医
所属学会
- 日本外科学会
- 日本呼吸器外科学会(評議員)
- 日本胸部外科学会
- 日本内視鏡外科学会(評議員)
- 日本肺癌学会
- 日本呼吸器学会
- 日本呼吸器内視鏡学会(評議員)
- 日本結核病学会
- The International Association for the Study of Lung Cancer
- The Society of Thoracic Surgeons
- The European Society of Thoracic Surgeons
