対象疾患

当科は肺、縦隔、胸壁に対する外科治療を担当し、肺がん、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍などの腫瘍性疾患に加え、気胸、膿胸、重症筋無力症、多汗症、外傷など多岐にわたる疾患に対して専門的な医療を提供しています。患者さん一人ひとりに誠意をもって寄り添い、多職種で連携して常により良い治療法を探求し、豊富な経験に基づいた安全で質の高い低侵襲手術を積極的に行っています。

特徴・特色

多職種で一体となったチーム医療

当科は、呼吸器内科、放射線科と共に呼吸器センターという一つのチームを結成し、密に連携して高度な専門医療を実践しています。患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療法を話し合い、集学的治療を積極的に行うことで、患者さんの予後改善を追求しています。

安全で質の高い低侵襲手術

安全性と根治性は担保したうえで、小さい傷から行う胸腔鏡手術やロボット支援手術、肺の損失が少ない区域切除などを積極的に行い、できるだけ患者さんの身体への負担が少なくなるよう努めています。

肺がん

CT検診の勧め

「肺がん」のイメージは従来、男性の喫煙者がかかる疾患というものでした。確かに喫煙は非常に強い危険因子であり、肺がんの罹患率は男女比が2対1と、喫煙率の高い男性の方が多いです。しかし近年ではたばこを全く吸わない女性の肺がん(特に腺がん)が増加しており、たばこを吸わないからといって肺がんにかからないわけではないことに注意が必要です。治療の進歩に伴い肺がんによる死亡率は減ってきていますが、肺がんに罹患する方の数は依然増え続けています。CTの普及に伴って肺がんの早期発見が可能になってきており、腫瘍が小さい段階で発見できれば、より低侵襲な手術で治すことができます。これまで一度も受けたことがなければ、CTによる肺がん検診を受けることをお勧めいたします。

肺がんの低侵襲手術

肺がんの標準的な治療方法(標準手術)は肺葉切除とリンパ節郭清です。しかし近年では2cm以下の小型肺がんが多く発見されるようになりました。本邦で行った臨床試験の結果、小型肺がんでは肺切除量が少ない区域切除や部分切除などの縮小手術でも十分に根治が期待できるというデータが認められており、患者さんの肺機能に対する負担の小さい(低侵襲な)縮小手術をお勧めしています。

また、手術の傷もこの20年で大きく変わりました。以前は20cmほどの大きな傷を背中につけて肋骨も切る開胸手術が一般的でしたが、近年では3cmまでの小さい穴から手術を行う胸腔鏡手術やロボット支援下手術が普及しています。胸腔鏡手術は傷が小さく術後の回復が早いため社会復帰も早いとされています。胸腔鏡手術と開胸手術の違いは手術の操作方法の違いであり、実際に胸の中で行う手術の内容は同じです。現在当院では、胸壁(肋骨など)を切除する必要がある場合や血管形成・気管支形成を行う場合を除き、ほぼ全ての肺がん手術を胸腔鏡手術で行っています。また、胸腔鏡手術においても適切に行えば開胸手術と同等のリンパ節郭清が可能であると考えており、手術前にリンパ節転移が疑われる場合でも胸腔鏡手術の適応としています。しかしながら、術前検査の結果や手術中の状況により、安全性や根治性が担保出来ないと判断されれば、開胸手術へ変更する場合もあります。手術前には個々の患者さんの状況について呼吸器外科のメンバー全員で十分な検討を行っています。

患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療法を追求

当科は、呼吸器内科、放射線科と共に呼吸器センターという一つのチームを結成し、密に連携して高度な専門医療を実践しています。患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療法を話し合い、集学的治療を積極的に行うことで、患者さんの予後改善を追求しています。

標準的な肺癌手術では、胸腔鏡手術やロボット支援下手術などの低侵襲アプローチで行うことによって身体にかかる負担を少なくし、ほとんどの患者さんは手術後1週間以内に退院されます。また、輸血を必要とする頻度は0.5%程度で、手術時間は3時間程度です。手術死亡率は0.3%程度と安全な成績です。肺癌が強く疑われる場合でも、通常の検査で術前に確定診断を得ることが困難な場合があります。そのような時は、全身麻酔下で胸腔鏡検査を行い、迅速病理検査で診断を確定し、引き続き必要な手術に移行します。

日本は世界一の長寿国であり、肺癌患者さんも高齢化しています。その為に肺癌の治療に際して、心臓病、糖尿病、その他の合併症をお持ちの方も数多く見られます。そのような方々に対しては、当院が総合病院であり各分野のエキスパートが多数揃っていて迅速に対応可能であるという特性を生かし、他の専門科との密接な協力体制のもと、安全に手術が受けられる環境を整備しています。

縦隔腫瘍

縦隔腫瘍とは

『縦隔』という言葉はあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、これは左右の肺に挟まれた胸の真ん中の空間のこと指します。ここには心臓や大血管、気管、食道、胸腺 (きょうせん) などの臓器が存在し、この空間に発生する腫瘍を全てまとめて縦隔腫瘍と呼んでいます(図1参照)。つまり『縦隔腫瘍』と言っても、この中には良性・悪性を含むさまざまな性質を持った腫瘍が含まれることになります。

縦隔腫瘍図1
(縦隔腫瘍図1)

発生頻度の高いものとして、①胸腺から発生する胸腺腫瘍(胸腺腫や胸腺癌)、②胸腺嚢胞(のうほう)や気管支原性嚢胞などの嚢胞性疾患、③神経から発生する神経原性腫瘍、④胚細胞性腫瘍、⑤悪性リンパ腫をはじめとしたリンパ性腫瘍、などがあります。胸腺腫瘍は悪性の性質を有するため治療が必要になりますが、嚢胞性疾患や神経原性腫瘍の多くは良性で、必ずしも治療が必要とは限りません。それぞれの腫瘍の特徴に応じて治療を検討する必要があります。

2024年に日本全体で行われた呼吸器外科手術は5万件弱ですが、このうちの縦隔腫瘍手術は約6000件で全体の6.5%と、比較的まれな疾患であることがわかります。ただし、実際に手術が必要ない患者さんも含めると縦隔腫瘍あるいはその疑いがあると言われて私たちの病院を受診される患者さんはそれほど珍しいわけではありません。縦隔腫瘍は進行して大きくなると周囲の臓器を圧迫することによる症状が生じることがありますが、縦隔は比較的広い空間なので、ある程度の大きさにならないと周囲臓器の圧迫が生じにくく、多くは無症状のうちに健診や他疾患の検査中に偶然発見されます。縦隔腫瘍と言われたら、症状がなくともまずは専門施設を受診し、適切な診断のもとに治療について相談する必要があります。

縦隔腫瘍の診断

全身のどこに生じた腫瘍でも、診断を確定するためには腫瘍組織を顕微鏡で観察する病理診断が必要となります。比較的組織が採取しやすい臓器に発生した腫瘍の場合、腫瘍に直接針を刺すなどして組織を採取しますが、縦隔には心臓や大血管など重要臓器があり、針を刺して安全に組織を採取するのが多くの場合は困難です。このため、CTやMRI検査などの画像検査が診断の要になります。

まず、腫瘍が縦隔の中のどの辺りに存在するのかが診断の大きな手掛かりとなります。これは発生する場所によってできやすい腫瘍が異なっているためで、例えば、縦隔の中でも前の方(前縦隔)には胸腺腫、胸腺嚢胞、胚細胞性腫瘍などが、真ん中の方(中縦隔)には気管支原性嚢胞やリンパ腫、後ろの方(後縦隔)には神経原性腫瘍などが発生しやすいとされています(図1参照)。腫瘍のできた場所や、CTやMRIで腫瘍内部がどのような性状かを知ることで診断の予測が可能となります。最近では画像検査が進歩し、比較的高い精度で診断の予測ができるようになりました。画像検査で悪性腫瘍が疑われる場合や、腫瘍が増大してきている場合、また、画像だけでは診断が難しい場合には、診断と治療を兼ねて腫瘍を切除する手術が勧められます。

縦隔腫瘍の治療

縦隔腫瘍の治療は腫瘍の種類や進行度によって異なりますが、標準的な治療は手術となります。特に、胸腺腫や胸腺癌などの胸腺腫瘍は悪性であるため、完全切除が治療の基本となります。良性の腫瘍であっても増大によって症状を引き起こすこともありますので、一般的には手術による摘出が第一選択となります。ただし、増大傾向がない、もしくは非常に緩徐であれば患者さんの年齢や全身状態、希望なども考慮した上で経過観察をすることもあります。

胸腺腫、胸腺癌や胚細胞性腫瘍などの悪性腫瘍の場合、腫瘍の進行度や患者さんの状態によっては、放射線治療や抗癌剤治療、あるいはこれらと手術を組み合わせた治療が必要となることがあります。当院では、呼吸器外科、呼吸器内科、放射線科が合同で行うカンファレンスで診断や治療方針について十分な検討を行います。ガイドラインや臨床データをベースとして、患者さん個々の状態や希望に沿って、最適と思われる治療をスタッフ皆で考え、お勧めするようにしています。

当院での縦隔腫瘍手術

私たちの施設で行う縦隔腫瘍手術の約8割は胸に小さな傷を作って内視鏡下に操作を行う胸腔鏡手術で行っています。これは傷が小さいため、術後の痛みが少なく回復が早いというメリットがあり、低侵襲(ていしんしゅう)手術と呼ばれています。傷の位置は腫瘍の場所や大きさによって、最適と思われる部分を選択します。私たちの施設で行う縦隔腫瘍手術で最も多いのは低悪性度腫瘍と言われる胸腺腫に対するものですが、同じ胸腺腫でも腫瘍の状況によって、”剣状突起下”というみぞおち部分からカメラを挿入して行う方法と、側胸部の肋骨の隙間からカメラを挿入して行う方法を使い分けています(図2参照)。また、最近では手術支援ロボットを使用したロボット支援下手術も積極的に行っています。これも内視鏡下手術のひとつではありますが、胸の中で使用するロボットの鉗子という道具にいくつかの関節がついていて、より自由度の高い動きが可能になっています。これにより、繊細で正確な操作を行うことができます。

縦隔腫瘍図2
(縦隔腫瘍図2)

大きな腫瘍で、心臓や大血管に接していたり、周囲の臓器に浸潤が疑われるような場合には、胸の真ん中の骨(胸骨)を縦に切開して行う胸骨正中切開での手術を行います。心臓・血管や食道の周囲の操作が必要になる場合には、状況に応じて心臓血管外科や食道外科と協力して合同で手術を行うこともあります。その場合、麻酔科も含めて手術前にカンファレンスを行い綿密なシミュレーションの上で手術に臨みます。縦隔という重要臓器が集まった場所の手術ですが、複数の臓器の専門家と協力しながら、さまざまな状況に柔軟に対応できるのが当院の強みだと考えています。
縦隔腫瘍といっても状況は患者さんによって異なります。その治療法もさまざまですが、当院ではどのような状況にも対応できる環境が整っていますので、まずは安心してご相談ください。

転移性肺腫瘍

肺は他の臓器に発生した悪性腫瘍が転移しやすい臓器です。もともとの「がん」が発生する臓器としては大腸、乳房、腎臓などがあります。それぞれのがんの原発部位の腫瘍が十分コントロールされている場合には、肺の転移巣を切除すると予後の延長が得られることが報告されています。

転移性肺腫瘍の手術は、通常胸腔鏡手術で肺の部分切除を行います。病巣の存在場所によってはさらに広い範囲をブロックごと切除する区域切除を行い、必要があれば肺葉切除を行う場合もあります。胸部CTでも3mm以下の腫瘍は見つかりにくく、画像では分からない数多くの転移巣が存在する可能性が考えられるため、原則として3か月以上の経過観察期間をおき、肺転移巣の数が増えないことを確認したうえで手術をお勧めしています。ただし、転移している腫瘍の数が10か所以上と多い場合や、肺切除量があまりに大きくなってしまう場合には、手術はお勧めできません。その場合は専門科とのカンファレンスを行い、患者さんに最もよい方法を相談します。

炎症性疾患

炎症性肺疾患であっても、画像上肺癌と区別がつかないものや、病変が限局していて内科的治療で十分に軽快しないものは手術の対象となります。結核、非結核性抗酸菌症や、アスペルギルス症などの真菌症が挙げられます。

結核腫の場合には無症状で偶然発見される場合もありますが、それ以外の疾患では、肺炎の症状が出たり、痰や血痰が出たりすることがあります。また、結核を治療されてある程度の年月が経って慢性膿胸として経過していても、ある時感染したり、肺と膿胸がつながってしまって症状が出現したりすることがあり、そのような場合は手術の必要性が生じます。

炎症性疾患は良性なのでできるだけ胸腔鏡手術で行いますが、高度の癒着などで開胸手術が必要となることもあります。膿胸の手術では、急性膿胸の一部では胸腔鏡手術で対処できるものもありますが、慢性膿胸では開胸で手術を行います。

嚢胞性疾患

自然気胸、巨大肺嚢胞、進行した肺気腫が挙げられます。自然気胸は突然発症する呼吸困難や胸痛などによって診断されることがあります。一般的には若年男性の肺にブラ(肺嚢胞)が生じて発症する原発性気胸が多いですが、肺気腫や肺線維症を有する方が併発する続発性気胸は、基礎疾患による呼吸困難の増悪と十分区別されない場合もあるので注意が必要です。

嚢胞性疾患に対しては、通常保存的な(内科的な)治療が優先されます。保存的な治療で軽快しない場合や再発する自然気胸、増大する巨大肺嚢胞、一部の肺気腫が手術の対象となります。当科ではいずれの場合も原則的に胸腔鏡手術で治療を行っています。

多汗症

手掌や腋窩の異常な多汗が特長です。足底の多汗がみられることもあります。治療の対象となるのは患者さんが日常生活を送られるなかで著しい不都合を感じ、外用薬や経口薬で症状が改善せず、治療を強く希望される場合です。

手術は、胸腔鏡下に左右の胸部交感神経幹の遮断術を行います。当科では2泊3日で手術を行っています。この手術の副作用として代償性発汗があります。これは、手掌・腋窩・顔面の発汗は減少する一方、胸部・背部・下半身などの発汗が増えてしまう現象です。術前に担当医から十分に説明を受け、代償性発汗のリスクについて理解していただく必要があります。

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