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研究部門紹介


泌尿器科腫瘍部門

部門長:津村 秀康

部門長:津村  秀康

泌尿器腫瘍は、「腎・副腎・後腹膜腫瘍」、「尿路上皮癌」、「前立腺癌」、「精巣腫瘍・ 陰茎腫瘍」など、後腹膜臓器から陰茎に至るまでの広い範囲に発症します。通常、「がん」と呼ばれる悪性腫瘍の治療においては、まず内科が診断したのち、外科に紹介して手術を施行し、その後は患者さんの病態に応じて内科や外科、腫瘍内科などで経過観察・治療が行われることが多いため、1人の患者さんに医師として長くかかわることは難しい傾向があります。しかし泌尿器科の場合、診断・手術・治療はもとより、再発後の化学療法など、1人の患者さんに総合的に診療を継続できる特徴があります。そのため、患者さんとの長い信頼関係が構築でき、医師として非常に充実した診療を行うことができる科といえます。

次に北里泌尿器科の特徴として、泌尿器科腫瘍の圧倒的な症例数があります。腎細胞癌や尿路上皮癌の年間新規患者数は各々約80例、約100例と多く、前立腺癌も年間500例を超える新規症例数があります。当科では、この豊富な症例数に基づいた充実した初期・後期研修を行うことが可能です。

さらに、最も大切な点として、充実した高いレべルの診療スタッフがあげられます。スタッフは全員、米国の大学・がんセンターへの留学経験を有しており、当科では米国のacademic institutionで多く採用されているfacultyによる診療体制が構築されております。従って、臓器・疾患別に専門の診療担当者が診療・教育・研究に従事することにより、良い意味での集約された高いレべルでの診療が行われております。そして、常に海外の医療機関と連携を行いながら、アップデートした医療が提供されております。医師としての長い臨床経験の中で、おそらく最初の数年間での経験・教育で、その後の医師としての立ち位置が決まると言っても過言ではありません。北里の泌尿器科には、このような豊富な症例数、充実した診療スタッフが待っています。2014年5月からは新しい新病院が稼働しており、素晴らしい手術室や院内施設・ 設備も整っています。北里以外の大学を卒業した先生方も大勢働いており、皆が大きな夢をもって、それに向かって努力しています。明るく自由な雰囲気で、ぜひ一緒に働いてみませんか?


2-1 腎・後腹膜腫瘍班

北島 和樹


部門長:北島  和樹

腎・後腹膜腫瘍の中で、最も高頻度の疾患は腎細胞癌です。腎細胞癌は、限局性か進行性かで治療方法が異なります。限局性腎細胞癌に対しては、根治的腎摘除術や腎部分切除術が治療の中心となります。一般的に、根治的腎摘除術は径が4cmを超える腫瘍に適応となり、腎部分切除術は径が4cm以下の腫瘍に適応となります。近年の腹腔鏡下手術の技術の進歩により、これらの手術を腹腔鏡下で行うことが多く、腹腔鏡下根治的腎摘除術は限局性腎細胞癌の標準的術式と位置付けられています。北里大学病院においても以前より積極的に同術式を取り入れ、多数のトレーニングを積むことが可能です。腹腔鏡下腎部分切除術は技術的難易度が高く、症例によって選択可能となります。腹腔鏡下手術以外にも、開放の根治的腎摘除術や腎部分切除術を多数経験することが可能です。転移を有する進行性腎細胞癌に対しては、分子標的薬や免疫療法といった薬物療法が治療の中心となります。特に分子標的薬は、2008年に本邦で初めて保険承認された治療薬で、まだ日は浅いですが、北里大学病院では多数例の治療実績を有します。特徴的な有害事象等が認められますが、十分に対応可能です。後腹膜腫瘍は、肉腫や神経性腫瘍があり、比較的稀ではありますが、手術症例を経験することが可能です。

2-2 尿路上皮癌班

松本 和将


主な疾患として腎盂・尿管癌および膀胱癌の2領域を扱っています。本疾患は、治療後に再発しやすい、また、初診時に進行癌である場合など予後の悪い疾患です。そのため、診断マーカーの開発、新規治療の開拓、エビデンスの構築を目指した全国・世界(アメリカ、オーストリア、イタリア、ドイツ、フランス、カナダ)各施設との共同研究を展開し、積極的な診断・治療を行っています。

腎盂・尿管癌
1 逆行性腎盂造影や尿管鏡を用いた診断
2 腹腔鏡下腎尿管摘除術 (NxUxpCx)
3 T3症例の開腹術、拡大リンパ節廓清術
4 進行癌に対する全身化学療法
膀胱癌
1 経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT)
2 BCG膀胱内注入療法の導入・維持療法
3 膀胱全摘除術(開腹術および腹腔鏡下術)(RCx)および拡大リンパ節廓清術
4 ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術(当院倫理委員会承認済)
5 尿路変向術:腸管を利用した自然排尿型代用膀胱およびパウチ、回腸導管
6 進行癌に対する化学放射線療法
7 進行癌に対する新規全身化学療法(gemcitabine/paclitaxel、gemcitabine/nedaplatin)
8 シスプラチン抵抗性進行癌に対するテーラーメイド癌ペプチドワクチン療法 研究内容
学内理学部・医療衛生学部との共同研究
1 新規腫瘍関連蛋白の検出
2 各種蛋白の治療効果に関する動物実験
3 新規蛋白の尿細胞診への応用
4 光干渉断層撮影(OCT)の尿路への応用
図1
全国施設との共同研究
1 各種 BCG 膀胱内注入療法の導入・維持療法
2 テーラーメイド癌ペプチドワクチン療法
世界各施設との共同研究
1 腎盂・尿管癌の各種予後因子に関する検討
2 進行性膀胱癌の各種予後因子に関する検討
2-3 前立腺癌班

津村 秀康


図2

前立腺癌の本邦での罹患率は、近年増加の一途を辿っており、2006年の罹患数が年間4万2千人で、胃癌、大腸癌、肺癌に次いで第4位です。しかし2025年には年間11万8千人が罹患すると予測されており、胃癌を抜いて男性悪性腫瘍の第1位になると予測されています(図1)。我々の病院がある相模原市での将来予測においても、20年後の2045年まで一貫して前立腺癌症例が増えることが予測されており、泌尿器科疾患の中でも特に重点的な疾患といえます。しかし全国の泌尿器科医師はわずか6500名程度に限られており、この文面を読まれている皆さんが医師となって活躍する時には、今以上に前立腺癌の症例が増えており、より専門的な泌尿器科医師が社会に求められていると言えます。

北里でも前述のように、年間500名を超える新規の前立腺癌患者が受診しており、低侵襲治療を全国に先駆けて実施してきています。その内容として、手術療法として、1. ロボット支援前立腺全摘除術(写真1)、放射線治療として、2.ヨウ素 125 永久挿入密封小線源療法(写真2)、3.イリジウム 192 高線量率組織内照射(写真3)、4.強度変調 放射線治療(写真4)、5.寡分割照射が実施されており、世界的にも最も豊富な前立腺癌に対する手術・放射線治療の根治療法オプションを有しています。 また高精度な診断として、従来のテンプレート ガイド下での前立腺生検に加え、新たにMRIの拡散強調画像を経直腸的前立腺超音波画像と融合させた MRI-US Fusion Real-time Targeted biopsy(写真5)や、 前立腺癌の局所のみを治療する局所療法(Focal therapy:写真6)も行っており、世界の最先端に同調した前立腺癌診療をアジアで推進・牽引しています。このような先進的な治療を含め、過去10年間で50編を超える前立腺癌に関する英文論文を発表してきており、多くの大学院の先生達が精力的に基礎・臨床研究を発表して博士号を取得しています。北里泌尿器科には、このような豊富な症例数と充実した診療スタッフによる「教育」「診療」「研究」が揃っており、次のステップに向かって常に努力をしています。ぜひ一緒に働いてみませんか?

2-4 精巣腫瘍・陰茎腫瘍班

志村 壮一郎


部門長:志村  壮一郎

精巣腫瘍と陰茎腫瘍はともに希な疾患であり、発生率はそれぞれ10万人に約1人と0.1人程度といわれています。陰茎腫瘍は大学病院においても数年に1例を経験する程度の希な疾患であり、本項では精巣腫瘍を中心に述べます。ランス・アームストロングは1999年から2005年にかけてツール・ド・フランスを7連覇した世界的に有名なプロロードレーサーです。彼は、1996年(25歳時)に精巣腫瘍、肺転移、脳転移と診断されましたが、手術と抗癌剤により完治しました。抗癌剤治療では、標準治療薬の一つであるブレオマイシンで肺障害を生じる可能性があり、プロの自転車選手としての復帰を第一に考えたランスはこれを拒否し、他の抗癌剤による治療を選択し、その後の偉業を成し遂げました。さらに化学療法前に精子の凍結保存を行い、人工授精により子供を授かっています。残念ながら2012年にドーピング問題を指摘されましたが、彼の精巣腫瘍に対する治療から社会復帰までの道のりは精巣腫瘍患者のみならず癌サバイバーに大きな希望を与えてくれました。

図3

精巣腫瘍の好発年齢は20~40歳代と若く、精巣には痛みを伴わないことから、転移巣による症状により発見されることも少なくありません。しかし、ランス・アームストロングの治療経過に代表されるように、特筆すべき点は、転移を有する症例でも化学療法、外科療法、放射線療法などを組み合わせた集学的治療により、70-90%という高い治癒率が得られることです。これは白血病や悪性リンパ腫などの血液系腫瘍を除く固形癌では類を見ない唯一の疾患であり、医師としても非常にやりがいを感じる疾患です。当科における、これまでの精巣腫瘍に関する研究は主に後ろ向きの臨床研究で、治療効果の予測因子の検討などを行ってきました。今後は診断や治療のみならず、生殖医療の分野にも範囲を広げて研究を行っていきたいと考えています。