北里大学病院・東病院 ME部

Kitasato University Hospital Department of Medical Engineering
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ドレーゲルアカデミー参加報告

ドレーゲルアカデミーとは最新の医療動向をおさえた内容の人工呼吸器関連セミナーのことです。セミナーは人工呼吸器のグラフィック編、ウィーニング編、肺保護換気コース、近年は新生児の呼吸管理を中心にしたネオネータルエキスパート養成コース等が行われています。人工呼吸器の基礎から応用まで臨床現場に即した内容になっており、人工呼吸器に携わる医療関係者なら誰でも人工呼吸器にさらに関心が深まるようなセミナーとなっています。

今回2015年度肺保護換気コースの参加報告をさせていただきます。
急性呼吸不全(ARDS等)に対する人工呼吸器のアプローチの考え方と実践的な肺保護換気戦略について実際の症例をもとにした内容でした。
肺に損傷が起きるということは、肺病変の程度により含気のある部分で過伸展が生じ、肺から炎症物質が全身に放出された臓器不全の原因となりうる非常に注意が必要な病態です。
ARDS治療の際、血管透過性を亢進させた背景病態(感染症、高サイトカイン状態)のコントロールをし、多臓器不全を防止すること。また、適切な時期に人工呼吸療法を開始し、VILI(Ventilator Induced Lung Injury:人工呼吸器誘発肺損傷)を防止する肺保護換気を施行することが重要です。ARDSの死亡率が改善された肺保護換気戦略は急性期早期の筋弛緩、急性期早期の腹臥位、低容量換気の3つであり、それぞれ10%~20%程度死亡率が低下しているとのことでした。

・急性早期の筋弛緩
呼吸状態が不安定な初期段階では肺胞の壁にかかる圧が高く肺胞へのストレスが非常に強い場合があります。筋弛緩を行うことで、ストレスを低下させ、VILIを防ぐことができます。

・急性早期の腹臥位
重症呼吸不全患者様の90日仰臥位での死亡率は41%、腹臥位での死亡率は21%とのデータがあります。腹臥位は人間の生理的な体位であり、ARDS発症初期から均一換気を行うことによりVILIを防ぐことができます。

・低容量換気
肺胞過伸展を回避する目的でLower tidal volume コントロールを行うことです。tidal volumeを6ml/kg、プラトー圧25cmHO以下に設定することが重要であり、特にプラトー圧の設定は直線的に死亡率に直結しており、25~27cmH2Oを境に急激に死亡率が上昇することが証明されています。低容量換気の問題点としては、不均一肺では陽圧換気による過伸展は防ぎきれず、プラトー圧制限下ではPEEP設定に限界があるという問題点があります。

以上の解決策として、換気分布モニタリングと新しい肺保護換気モードの設定が重要になってきます。
換気分布モニタリング(EIT:Electrical Impedance Tomography)とは、16電極からなるベルトを第4-6肋間に巻き、リアルタイムかつ非侵襲的にガス分布をモニタリングする方法が注目をあびています。EITを使用することで、肺内ガス分布を動的にモニタリングできるため、肺胞リクルートメントの効果判定ができ、陽圧換気によるVILIの原因を早期に排除することができます。

新しい肺保護換気モードとしてAPRVモードが注目を浴びています。APRVの重要な要素として自発呼吸温存があります。自発呼吸の温存により、横隔膜運動による肺経圧が加わり、過剰な陽圧を加える必要が無く、VILIの防止につながり、背側の換気も良いとされています。

今回、ドレーゲルアカデミー肺保護換気コースに参加させていただき、急性呼吸不全における患者様の肺保護換気を適切に行うことが患者様の生命に直結することを再確認しました。より、質の高い医療・ケアの実現、患者様のQOLのさらなる向上のため、今後の人工呼吸器管理業務に生かしていきたいと思います。
ご覧いただきありがとうございました。