研究について

当科では一人一人の患者さんに最適の医療を提供することに尽力していますが、病気を意識しないで生活できるような医療を実現するためには多くの課題が残されています。これらの課題を克服するため、多くの臨床研究、基礎研究を行っております。

臨床研究について

糖尿病を中心とした代謝疾患やさまざまの内分泌疾患を対象とした、多くの臨床研究を行っています。当科で行っている研究は、北里大学医学部・病院倫理委員会に申請し、承諾を得た上で行っており、患者さまに同意を得て実施しております。同意いただけない場合にも診療上の不利益を受けることはありません。当科では看護部、栄養部、薬剤部・薬学部、臨床検査部との共同研究に加え、他施設との共同研究も積極的に実施しております。


内分泌代謝内科に通院中、または過去に通院されていた患者様へのお知らせ

基礎研究について

内分泌疾患・代謝疾患の病態を解明し、新規治療法の開発を目指した研究を行っています。とくに糖尿病根治を目指した膵β細胞再生医療の研究に注力しています。国内外の多くの研究機関・大学と共同研究を進めており、希望者には海外への留学に向けたサポートを行いながら、研究レベルの向上を図ります。

代表的な研究テーマは下記の通りです。

[1] 糖尿病根治に向けたβ細胞新生誘導

全ての糖尿病患者では膵β細胞からのインスリン分泌が低下しています。よって糖尿病の根治を実現するためには、血糖値を正常範囲に制御するのに充分な数のインスリン産生細胞=β細胞を確保する必要があり、これを達成するための治療法として、膵β細胞再生療法が注目されています(図1)。その実現に向けた一つの手掛かりは、膵臓の発生・分化過程を詳細に解析し、それを再現することにあります。これまでに様々な遺伝子改変マウスを用いて、膵β細胞がいつ、どのような機構で生まれてくるのかを解明し(Miyatsuka T et al. Diabetes 2014)、β細胞以外の膵細胞からインスリン産生細胞を誘導することに成功してきました(Sasaki S et al. Diabetologia 2015, Miura M et al. EBioMedicine 2018)。糖尿病再生医療の実現に向け、より高効率、低侵襲、かつ安全性の高い治療法の開発を進めてまいります。

[2] 糖尿病の新規治療法探索に向けた膵β細胞容量調節機構の解明

糖尿病患者では病期の進行とともにβ細胞容量が低下し、1つ1つのβ細胞の遺伝子発現プロファイルも変化することが知られています。これまでに糖尿病モデル動物を用いて、β細胞容量を制御する分子機構を明らかにしてきました(Takahashi M et al. Sci Rep. 2020)。今後もβ細胞の機能を質的・量的に改善するための新規治療法探索に取り組んでいきます。

[3] 糖尿病の病態解明に向けた血糖変動解析

持続血糖測定(CGM)は日本では2010年に保険収載されました。当科ではその有用性にいち早く着目し、すでに2006年から他施設に先行して導入しています。CGMを利用することにより詳細な血糖動態を把握することができるため、日常臨床や臨床研究に活用してきました(図2)。1型糖尿病、2型糖尿病のみならず、糖代謝異常合併妊婦や糖尿病血液透析患者、内分泌疾患による糖尿病など、様々な糖代謝異常の病態解明を目指して研究しています。糖尿病血液透析患者にCGMを用いた研究では、20%以上に透析関連低血糖を認め、これらの低血糖が全て無自覚性であったことを報告しました(Hayashi A et al. Diabetes Care 2021)。現在、日常診療で用いられる血糖管理マーカーでは同定できない、血糖日内変動や無自覚低血糖を反映する指標を探索し、各種糖尿病の病態による血糖プロファイルの特徴の解明、CGMを用いた血糖管理方法などの臨床研究を進めています。

[4] 糖尿病治療薬の薬効評価および作用機序解明に向けた臨床研究

1921年にインスリンが発見されてから、今年で100年になります。これまでに様々な糖尿病治療薬が誕生しましたが、その作用機序の全容は未解明です。当科では糖尿病治療薬の多面的作用を明らかにしてきました(Inoue M et al. J Diabetes Investig. 2019)。今後もさまざまな視点で糖尿病治療薬の薬効解明に取り組んでいきます。

[5] 下垂体疾患の病態解明および新規治療法の開発

先端巨大症や成人成長ホルモン分泌不全症に罹患した患者さんの糖代謝異常に関する臨床研究(Taguchi T et al. Endocr J in press)や、成長ホルモン分泌不全症に対するホルモン補充療法が非アルコール性肝脂肪疾患に与える影響について研究を行っています。これらの臨床研究と並行して、成長ホルモン産生腫瘍の新たな治療標的探索に向けた基礎研究も行っています。

当教室では2022年度の大学院生を募集しております。