心臓二次予防部門

北里大学病院心臓二次予防部門
主任 小板橋俊美

心臓二次予防部門とは

 心臓二次予防部門は、病状が安定した心疾患を持つ患者様を対象とし、心血管疾患の再発および心不全の予防を目的とする完全予約制の外来です。北里大学東病院にて2001年に設立された「心臓二次予防センター」が前身です。東病院の閉院に伴い、2020年6月より北里大学病院西館3階の専門外来ブースにて「心臓二次予防部門」として、その役割を引き継いでおります。
 処方や日常診療はかかりつけ医にて継続頂き、当部門では、患者様の病態や安定度に合わせて1~3年毎の定期的な診察とハートチェック(心臓精査)を行います。検査結果は、循環器内科医の総評と助言を交え診療情報提供書としてかかりつけ医に報告致します。結果によっては、心臓カテーテル検査を含む追加検査をお薦めし、更に詳しい病態の評価を行うことがあります。また、専門的な循環器内科医の継続診療(薬の調整や専門的な治療など)が必要であると判断した場合には、希望により大学病院内の循環器内科専門外来の受診を手配致します。このような循環器内科医の専門的な診療と検査を定期的に受けて頂くことで、不安に思いがちな心臓病であっても、かかりつけ医への通院を安心して継続頂けます。
 心臓二次予防部門では、基本的には治療を行いません。心臓の機能がひどく悪くなる前に不調を発見して悪化や再発を予防する「人間ドックの心臓版」のようなイメージです。

心血管疾患の再発と心不全を予防する

 二次予防部門の対象となる患者様は、従来、急性心筋梗塞などで急性期に当院での入院歴のある患者様に限られていました。疾患管理も、もう一度心筋梗塞を起こさないための「二次予防」に重きが置かれていました。現在では、無症状や投薬を必要としない心疾患患者様も対象とし、症状を伴う心不全への進展を予防することも目的としています。
 心不全とは病名ではなく心臓が心臓の役割をきちんと果たせない病態のことで、どんな心臓病(心疾患)でも心不全になる可能性があります。心不全の症状は主に息切れやむくみで、年を重ねるにつれ徐々に進行していきます。また、急激に悪くなることもあり、無症状で過ごしていても何かのきっかけで一気に命を脅かす状態にもなり得ます。心不全が悪化すると治療で回復しても身体機能は以前と同じレベルには回復しません。心臓の病気が何であれ、心不全になるリスクのある方が重い心不全にならないようにすること、症状のない段階から悪化させないことが重要です。
 特に、弁膜症や先天性心疾患などの構造的異常を伴う心疾患(SHD : structural heart disease)では、手術を要することがあり、適切なタイミングを見極めなければなりません。また、致死的合併症である感染性心内膜炎の教育も重要です。これらの疾患には専門的診療が不可欠であり、症状が無くても継続的に専門病院を受診することが必要です。
 そして心疾患の管理には、生活習慣と運動療法がとても大切です。当部門の特徴として、心臓リハビリテーション専門の理学療法士による運動機能評価と運動指導、看護師による生活指導があります。ご希望および条件により、外来心臓リハビリテーションや栄養士による栄養指導も受けることができます。

地域連携の強化とより専門性の高い循環器診療を目指す

 近年、成人先天性心疾患(以下ACHD:Adult Congenital Heart Disease)という分野が注目されています。先天性心疾患は生まれつきの心臓や血管の構造異常であり、100人に1人の割合で生じます。現在日本には、55万人以上の先天性心疾患をもつ成人患者様がおられます。小児期の手術の有無や手術を受けた年代、疾患の種類の多さなどから極めて特殊で専門性が高い診療が求められます。たとえ無症状で今まで治療を必要としてこなかったACHD患者様でも、症状として表れない重篤な病態が隠れている場合もあり、継続的な定期チェックは大切です。二次予防部門では、ACHDを専門的に診療できる循環器内科医が常駐しております。投薬を必要としないACHD患者様は、主にこちらで定期チェックをし、同時にご自身の心疾患への理解も深めていって頂きます。

 また、2024年度から血管疾患に特化した外来も新設致しました。主に小児期に罹患する川崎病の合併症である冠動脈病変は、成人期に発症する心筋梗塞などの冠動脈疾患とは異なった特殊な診療が必要となります。当部門は、小児科から内科への成人移行の役割も担っています。同外来では、下肢動脈疾患や大動脈解離など、主に成人期に発症する血管疾患についても専門的な診療を行っています。

 このように、若年の患者様も増えていますが、同時に患者様の高齢化も進んでいます。東病院の時代から10年、20年通って下さる方々もおり、当時60、70歳だった方々が90歳近くになってきました。年齢相応の体の衰えや併存疾患が出てくると、通院が困難となってきます。高齢で今後専門的な手術などを行わない患者様は、無理をして大学病院に通わずに、在宅診療を含めた地域医療にバトンタッチしていくことも進めています。

 すべての心疾患は心不全の原因となります。心不全は進行性で予後不良な病態です。多職種が参入する包括的な管理で、患者様の心不全の悪化を予防します。少しでも入院を減らし、身体機能の衰えを抑制できれば、たとえ心疾患をもっていても豊かな人生を送ることができます。北里大学病院は、急性期のみならず、『心不全予防』における地域医療の拠点としても役割を果たして参ります。

2024年7月