北里大学病院骨バンクは、1971年の北里大学病院創立と同時に、整形外科内に九州大学の方式による骨バンクとして設立しました。当初は、手術の際に切除されて廃棄される大腿骨頭や、切断された下肢の骨を無菌的に採取・保存して、大きな骨欠損の修復を必要とする患者さんの治療に用いられていました。
次第に同種骨移植を必要とする患者さんの数が増加し、手術時に採取される生体由来の同種骨だけでは需要に追いつかなくなりました。当時、「腎臓の移植に関する法律」が国会に上程され、国民の間に移植医療に関する議論が広く行われている時期でした。我々は法律の専門家と綿密に協議した結果、当時の法律のもとでも「ご遺族の書面による承諾」を得ることによって、ご遺体から採取した骨や靱帯を保存して移植に用いることが可能であるとの結論に達し、1978年に、本邦では初めて、ご遺体からの採取に着手することになりました。当時としては画期的なことでした。
同種組織の移植においてもっとも大きな問題は、悪性腫瘍や感染性疾患などの病気移しであり、肝炎やエイズなどのウイルス感染症は厳重なスクリーニングを行う一方、加温や放射線照射、エチレンオキサイドガスなどによる消毒あるいは滅菌を施すことによって安全で良質な移植骨を提供できる体制を整えてきました。当バンクは1996年3月に施設内倫理委員会の厳正な審査を受けて運営されており、日本組織移植学会のガイドライン、日本整形外科学会のマニュアルに則って、倫理的にも質的にも整備されたバンクとして、2006年3月に日本組織移植学会にも認定されました。現在、扱う同種骨を他施設にも供給できる基準を満たす「カテゴリーT」の認定を受けた骨バンクは本邦に1施設のみであり、当バンクは、非生体組織を扱う国内唯一の骨バンクです。
平成28年度の診療報酬改定において、同種骨移植は正式に保険収載され、多くの術式に使用できるようになりました。この数年で同種骨移植手術の件数は増加の一途でありますが、同種骨移植が増加する要因として、自家骨や人工骨のみでは対応が困難な、人工関節の再手術、広範な骨欠損を伴うような大きな骨折や偽関節、脊椎の広範囲固定術、骨肉腫などの骨軟部腫瘍など、同種骨移植対象となる疾患が増加したことが挙げられます。時代とともに医療が進歩し、昔では対象とならなかった疾患に対して手術が行われるようになり、またその術式も刻一刻と進歩しています。これらの時代背景を考えると、同種骨移植の選択肢を本邦で維持することは日本国民全体にとって重要かつ有益であり、当バンクとして国民の健康寿命の延伸に貢献できることを、心より光栄に思っております。
当バンクには日本組織移植学会認定の組織移植コーディネーターが常駐しており、日夜献身的に活動しています。また当バンクは日本臓器移植ネットワークと連携した東日本組織移植ネットワークに加盟し、東日本における唯一の認定骨バンクとして活動しており、院内だけでなく院外におけるドナー情報にも対応しております。今後、より良い同種骨移植を実現するために、当バンクと、他の医療機関との連携体制を強化し、患者さんのための医療を構築していきたいと思っております。
当バンクより提供された同種骨移植に関する技術は、2007年に厚生労働省より「先進医療」として認定され、その有用性が評価されて、2016年4月に保険診療として認められました。この安全で有効な医療技術を、広く皆様に享受いただける準備が整いつつあります。今後も「より安全で良質な同種骨・靱帯を安定供給する」ことを目指して、骨バンクの運営を行って参ります。骨バンクの活動は、整形外科の医師、組織移植コーディネーターの献身的な努力によって維持されています。皆様の温かいご理解とご支援をいただきながら邁進したいと存じます。ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
北里大学病院骨バンク代表
整形外科主任教授・相 晶士