部門紹介

概要

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科とは、鎖骨から上の脳、眼球、脊椎を除いた臓器機能すべてが対象となり、その診療範囲は耳鼻咽喉・頭頸部に含まれる実際の体積で考えられるよりもはるかに広く、具体的には耳科、聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚、音声、構音、咀嚼、嚥下、呼吸、顔面神経、アレルギーなど様々な重要機能・疾患に対する診療から、舌・口腔、咽頭、喉頭、耳、 鼻・副鼻腔、甲状腺、副甲状腺、唾液腺、頭蓋底の良性および悪性腫瘍に対する診療を含みます。これら広範囲の疾患に対して、良質・安全な標準的医療を提供できかつ高度先進的な専門治療を実現するために、北里大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科では「頭頸部腫瘍」,「難聴・補聴器」,「めまい・平衡」,「鼻副鼻腔」,「喉頭」,「小児耳鼻」の各グループに細分化し、より専門性の高い診断、治療を提供すると共に、新たな診断方法や治療法の開発を目指しています。各専門グループによる専門外来への受診は、一般外来で必要な診察、検査など受けてからの予約となりますのでご理解のほどよろしくお願い致します。

頭頸部腫瘍グループ火曜日午後

 当科は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科という名前を掲げています。頭頸部とは、一般的に鎖骨より上側の領域のうち、脳と眼球をのぞいた部位を指しており、そこに生じる病気の手術治療を扱っています。頭頸部腫瘍グループでは、その領域にできる主に悪性腫瘍(頭頸部がん)の治療にあたっており、舌を含む口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、鼻・副鼻腔がん、唾液腺がん、甲状腺がんなどが対象となります。

 頭頸部がんではその発生部位から、食事、会話、呼吸などの日常生活に欠かせない機能が治療により影響を受けやすいことが特徴です。当科では、それぞれの患者さんの状況に応じて、機能温存療法に積極的に取り組んでいます。

 頭頸部がんに対する手術件数は年間百数十例に及びますが、機能温存手術としては、早期咽頭がんでは消化器内科医と協力して内視鏡下経口腔的切除術を行っています。喉頭がんの早期症例では顕微鏡下経口腔的切除術を行っていますが、進行期症例でも可能なものは喉頭亜全摘術を行い、できるだけ喉頭機能の温存に努めています。その他に、切除範囲が大きく再建手術が必要となるような進行頭頸部がんでは、形成外科や外科と協同して手術を行っています。

 また、機能温存療法として放射線療法も積極的に行っており、必要に応じて抗がん剤・分子標的薬などの化学療法を組み合わせています。その対象となる患者さんに対しては、放射線治療医と合同で診察をして治療方針を決定しています。頭頸部がんへの放射線照射で生じやすい飲み込みの障害をできるだけ減らせるように、多くの患者さんに対して強度変調放射線治療(IMRT)という新しい放射線照射技術を導入しています。

 このように、当科ではがんを治すことだけでなく、機能にも配慮した治療を行うように心懸けています。

  • 喉頭亜全摘出術のメカニズム
  • 再建された術後喉頭内視鏡写真

喉頭亜全摘出術のメカニズムと再建された術後喉頭内視鏡写真

強度変調放射線治療(IMRT)

強度変調放射線治療(IMRT)は、従来よりも正常組織の照射線量を抑えつつ腫瘍部分に放射線を集中して照射できる技術です。より理想的な放射線治療が可能となり、治療成績の向上や副作用の軽減が期待できます。

  • 下咽頭表在がんに対する内視鏡下咽喉頭手術(ELPS)での切除例
  • 下咽頭表在がんに対する内視鏡下咽喉頭手術(ELPS)での切除例
  • 下咽頭表在がんに対する内視鏡下咽喉頭手術(ELPS)での切除例

下咽頭表在がんに対する内視鏡下咽喉頭手術(ELPS)での切除例

難聴グループ(難聴外来・補聴外来・新生児聴覚外来)月曜日午後、木曜日午後

 難聴グループは、難聴の診断・治療・補聴・聴覚管理と、長期間にわたり難聴の患者さんに寄り添っていけるような体制を心がけて診療しています。小児から高齢者まで幅広い年齢層の難聴に対応しています。

 難聴の診断については、診察・各種聴覚検査・画像検査を組み合わせて行います。

 突発性難聴やその他の急性感音難聴と診断した場合は、ステロイド投与を中心とした薬物治療を主に外来で行っています。合併症がある方や重症の方は入院治療を選択することもあります。中耳疾患(慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎、中耳奇形など)が疑われる場合は積極的に手術治療を行います。年間120件程度の耳科手術を行っております。

 感音難聴による聴覚障害に悩まれている方には、補聴器装用をおすすめしております。補聴専門外来にて、医師と言語聴覚士が協力しながら、各患者さんに最適と思われる補聴器フィッティングを行い、十分に試聴した上で決定していただくようにしています。両側高度難聴のため補聴器の効果が不十分な場合は、人工内耳埋め込み術を検討します。当科では人工内耳埋め込み術を成人・小児合わせて年間10件ほど行っています。

 また、当科は新生児聴覚スクリーニングで再検査が必要となった赤ちゃんの精密聴力検査機関に指定されています。一般外来を受診して精密聴力検査の予約をしていただき、結果の説明は新生児聴覚外来で行います。こどもの成長にとって、難聴の早期発見は非常に重要です。保護者の方は、不安な気持ちで受診を迷われることもあるかと思いますが、新生児聴覚外来では小児難聴専門の医師・言語聴覚士が対応いたしますので、ぜひ受診いただくようお願いいたします。

言語聴覚士による小児の遊戯聴力検査の様子

言語聴覚士による小児の遊戯聴力検査の様子

鼻副鼻腔グループ水曜日午後

 鼻・副鼻腔に生じる疾患の多くは鼻副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎です。その他腫瘍や外傷、鼻副鼻腔疾患に関連する症状に対して専門性の高い治療を行っています。治療に先立ち的確な診断が必要になるため、電子スコープによる鼻腔の観察、副鼻腔CT検査、採血によるアレルギー検査を行います。

 2015年1年間の鼻副鼻腔の手術は151症例、229側でした。そのほとんどが5−6日の入院、全身麻酔、鼻内視鏡下に行われます。副鼻腔、鼻中隔、下鼻甲介の手術が中心です。医療用ナビゲーションなどの手術支援機器も適宜使用しながら手術を行います。副鼻腔疾患による急性の視力障害や眼窩骨折については緊急手術にて対応します。内視鏡下副鼻腔手術V型(拡大副鼻腔手術)の実績があり施設基準も満たしています。

 鼻副鼻腔炎の原因は様々です。感冒がきっかけの鼻副鼻腔炎はいわゆる“ちくのう症“であり、汚い膿の鼻汁が続きます。マクロライド抗菌薬の少量長期投与の効果を見ながら手術を行います。アレルギーが原因の鼻副鼻腔炎は鼻の粘膜が水ぶくれのように腫れるため、鼻閉感、臭いに影響します。その中でも好酸球性鼻副鼻腔炎の一部は難治性で術後の再発を繰り返す症例もみられます。特にその重症例は2015年4月より難病指定となりました。当院で手術を行い、基準に該当する症例に限り難病認定することが可能です。虫歯やかびが原因の副鼻腔炎は原因を取り除くことが治療ですが、必要に応じて副鼻腔の手術で対応します。

 アレルギー性鼻炎では薬物療法の中でも点鼻ステロイド薬を中心に使用することで効果を得ています。手術療法は外来でのトリクロール酢酸による下鼻甲介化学剤手術(粘膜焼灼術)、下鼻甲介粘膜下電気焼灼術が行えます。アレルギー性鼻炎の症状の軽減、鼻閉症状の改善に効果があります。アレルゲン免疫療法においては舌下免疫用のアレルゲンエキスの発売に伴い、現在スギ花粉、ハウスダストにおける舌下免疫療法を行っています。スギ花粉に対して行った症例では2016年の花粉シーズンに全く薬物療法の併用が必要ない症例も多く経験しています。

ナビゲーションシステムを用いた鼻副鼻腔内視鏡手術

ナビゲーションシステムを用いた鼻副鼻腔内視鏡手術

喉頭グループ水曜日午後

 喉頭グループは耳鼻咽喉科の中でも咽喉頭(いんこうとう)といういわゆるのどに関連する病気を扱っています。音声・嚥下(飲み込み)という機能に関連する病気、上気道という空気の通り道を邪魔する病気の検査や治療に当たっています。音声に関しては声帯ポリープや声帯結節などの疾患による音声障害の状態をみる検査を行い、それに基づいて音声訓練や薬物治療などの方針を決定し治療を行っております。嚥下に関しては色々な原因で飲み込みが悪く、むせが多い方の嚥下の状態を様々な方法で評価し、適切な治療や対処法を一緒に考えていきます。入院中の方の療養のお手伝いとして診療することも多々あります。音声・嚥下双方とも必要があれば、言語聴覚士というリハビリの専門家や看護師と一緒に治療に当たります。上気道の問題を有する場合には、生命に直結する呼吸路の確保に加え、音声や嚥下の問題は避けられませんので、患者さんの状態をトータルで考え、最も良い方法を模索していきます。またもちろん適応があれば手術を含めた治療を行っております。大学病院の特性を生かした嗄声に対する声帯内脂肪注入術や、嚥下障害に対する内視鏡下輪状咽頭筋切断術などの先進的な治療を行ってまいります。

右反回神経麻痺による嗄声に、声帯内脂肪注入術を行った内視鏡写真

右反回神経麻痺による嗄声に、声帯内脂肪注入術を行った内視鏡写真

嚥下機能低下に対して、内視鏡下輪状咽頭筋切除術による嚥下機能の回復

嚥下機能低下に対して、内視鏡下輪状咽頭筋切除術による嚥下機能の回復

小児耳鼻科グループ金曜日午後

 主な小児耳鼻咽喉科疾患として当院では中耳炎、睡眠時無呼吸症、難聴、喉頭疾患、頸部良性腫瘍などの治療を行っています。また、形成外科、言語聴覚士と合同で「口蓋裂チーム」としても診療を行っています。

 手術治療や急性感染症・外傷などの治療の際、必要があれば小児病棟へ入院します。全身的な合併疾患をもつお子さんの場合には小児科のバックアップの元、診療を行っています。

 小児耳鼻咽喉科領域で多く行われる手術は睡眠時無呼吸症に対するアデノイド・扁桃手術と中耳炎に対する鼓膜チューブ留置術です。アデノイド・扁桃手術は1週間程度の入院で全身麻酔下手術を行います。鼓膜チューブ留置術は外来で行うことができる場合もありますが、お子さんが動いてしまう場合や、処置に危険が生じる可能性がある場合には3日間の入院で全身麻酔下手術を行います。また当院では小児の気管異物などに対し、必要があれば緊急手術が可能な体制を整えております。

めまい・平衡グループ

 平成24年4月より北里大学東病院にめまい疾患を主に診療する神経耳科を開設いたしました。現代のストレス社会を背景として、罹患率が増加を続ける疾患の一つとしてメニエール病が存在します。本疾患は厚労省が難治性疾患に指定しておりますが、当科では水分摂取療法という新しい治療法を開発し、めまい症状はもとより聴力の改善にも効果を上げています。その結果、日本全国より患者紹介を受けております。

 また、急速に進む高齢化社会は、めまい・平衡障害患者を増加させています。高齢者の平衡障害は内耳と小脳・脳幹を場とした加齢変化、退行変性に起因しています。そのため治療は困難でありましたが、唯一残された治療法として中枢代償を活性化させる平衡訓練(めまいのリハビリテーション)法を開発いたしました。また平衡訓練に体幹・下肢の筋力の増強を目的とした運動系のリハビリテーション(スポーツ指導医の協力を得ています)を組み合わせることで、高齢者のめまい・平衡障害の治療に大きな効果を生んでいます。

 これらの疾患以外のめまい関連疾患、特に末梢前庭性(内耳性)めまい疾患についても積極的に治療いたします。

CCDカメラを用いた眼振検査

めまいの客観的評価としてCCDカメラを用いた眼振検査を行います