医療の中の放射線基礎知識

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医療の中の放射線基礎知識

Bq(ベクレル)

放射性物質の量がどれくらいあるかを表します。
放射性物質が放射線を出す能力をいい、1ベクレルは1秒間に1回の壊変をいいます。
(kBq、MBq、GBq)

Gy(グレイ)

吸収されたエネルギーで放射線の量を表します。
吸収線量の単位で、放射線および物質の種類に関係なく、照射物質の単位質量当たり、放射線から与えられたエネルギー量をいい、1グレイは1kg当たり1J(ジュール)与えることを表します。
(μGy、mGy、cGy、Gy)

Sv(シーベルト)

人体にどの程度影響を与えるかで放射線の量を表します。
等価線量の単位で、放射線の種類やエネルギーにより人体組織にたいする影響が異なることを考慮した、放射線防護に用いられる線量です。
実効線量の単位としても使われ、各組織・臓器の線量(等価線量)に基づき算定する線量で、個人線量管理ではその人が受ける総合的な影響の度合いを表します。
(μSv、mSv、Sv)

放射線の単位に
よく使われる補助単位
μ(マイクロ) 10の-6乗
m(ミリ) 10の-3乗
c(センチ) 10の-2乗
k(キロ) 10の3乗
M(メガ) 10の6乗
G(ギガ) 10の9乗
T(テラ) 10の12乗

身のまわりにある放射線の種類

ラジウム含有温泉やラドン含有温泉

ラジウム含有温泉などは、健康によいと療養や気分転換のために温泉場を訪れる人がたくさんいます。
ラジウムはα線を出して気体のラドンに変わり、さらにラドンはα線を出して別の元素に変わります。その後も次々に元素が変化し、最後に安定な鉛になります。この間、α線やβ線やγ線も出ます。
ラジウム含有温泉やラドン含有温泉のある地域では、水中や空気中の放射能が普通の地域よりも高いのですが、放射線による病気などの影響は認められていません。
ラドンは世界中のどこでも大地からしみだしています。

新幹線で東京から新大阪へ

東京から新大阪へ行く列車の中で放射線の強さを測ってみると、トンネルに入るごとに放射線は強くなり、大きな川の鉄橋の上では逆に弱くなります。浜松あたりを過ぎると放射線は少し強くなり、西高東低の傾向がみられます。
大地はいろいろなアイソトープ(放射性同位元素)を含んでいるので、放射線を出しています。トンネルの中では、四方八方から放射線が来るので、放射線が強くなります。
鉄橋の上では、川の水が川底から来るγ線をさえぎるので、放射線は弱くなります。大地に含まれるアイソトープの濃度は場所によりかなり違います。一般に関西地方が関東地方よりも高いのです。
ラジウム温泉が多いイランのラムサー地方では、大地からの放射線が1年間につき400mSvを越える場所もあります。(日本の平均は0.41mSv)

飛行機で上空へ

ジェット機の中で放射線の強さを測ってみると、上空へ行くほど放射線は強くなります。これは宇宙線が上空ほど強いからです。空からは宇宙線がたえず降り注いでいます。これは主にγ線です。

20000m 12000m 4000m 2000m 海面
13μSv/h 5μSv/h 0.2μSv/h 0.1μSv/h 0.03μSv/h

放射能と放射線について

放射線と放射能

「放射線」と「放射能」はよく似た言葉で、ときどき混同されます。
アイソトープ(放射性同位元素)を電球にたとえると、電球から出る光が放射線であり、光を出す性質あるいは能力が放射能にあたります。放射能という言葉は放射能の強さの意味にも使われます。電球のワット数が、放射能の強さベクレル(Bq)にあたります。

放射線漏れと放射能漏れ

「放射線漏れ」とは、放射線をさえぎる遮蔽物の外に放射線が出てくることです。
「放射能漏れ」とは、アイソトープが囲みの外の環境へ漏れることです。もちろん放射線も漏れています。

放射線の仲間

人体に対する影響(被ばく)

内部被ばくと外部被ばく

自然放射線による被ばく(年間) 2.4mSv
内部被ばく 空気中のラドンなどの吸入から
食物などから
1.3mSv
0.33mSv
外部被ばく 大地放射線から
宇宙線から
0.41mSv
0.36mSv

被ばくの種類

内部被ばくと外部被ばくでは、全身あるいは組織や臓器が受ける放射線の量が同じなら、それによる影響は同じです。
全身被ばくと部分被ばくでは、同じ線量なら全身被ばくの方が影響の程度は大きくなります。
全身の場合、全ての組織・臓器が放射線を受けます。線量が多い場合、全ての組織・臓器に影響が出る可能性があります。

放射線影響の分類

A) 確定的影響

しきい線量があり、この線量を越えて被ばくした場合でないと、影響は発生しません。

臓器 影響 急性被ばく(0.1Gy/分以上) 慢性被ばく(0.1Gy/時以上)
精巣 一時的不妊 0.15Gy 0.4Gy/年
永久不妊 3.5~6Gy 2.0Gy/年
卵巣 一時的不妊 0.65~1.5Gy  
永久不妊 2.5~6Gy >0.2Gy/年
造血臓器 機能低下 0.5Gy >0.4Gy/年

B) 確率的影響

発ガン:
数百mSv以下の被ばく線量では、放射線による発ガンはほとんど心配ありません。

しきい線量がないと仮定した場合のガンで死亡する確率
1mSv/年の被ばくを0~生涯継続した場合 0.4%
2mSv/年の被ばくを0~生涯継続した場合 0.8%
10mSv/年の被ばくを18~65歳まで継続した場合 1.8%
20mSv/年の被ばくを18~65歳まで継続した場合 3.6%

遺伝的影響:
疫学的調査では現在までに、放射線被ばくによる遺伝的影響の発生は人では確認されていません。しかし、突然変異の発生は確率現象であり、ショウジョウバエやマウスなどの実験動物では、放射線による突然変異の発生率が、線量との間にしきい線量のない直接関係であることが認められています。この場合、遺伝的影響として現れる症状、病気が自然に発生している遺伝的影響と区別できません。わからないことについては、安全側にシフトする仮定をとるべきです。

医療被ばく(放射線検査)

適用の判断

被検者にとって、検査で得られる利益が放射線被ばくによる不利益をうわまわること。

健康診断のX線検査

胸部撮影 0.2mSv/回
腹部撮影 1.0mSv/回
胃のX線検査 3-5mSv/回
胃(透視) 10mSv/分
(25秒-190秒 術者や被検者により差がある)

(ポータブルでの胸部撮影時に、1.5m離れたところで0.25μSv)

公衆被ばく(医療被ばくと職業被ばく以外のすべての被ばく)

自然放射線だけでなく、核爆発実験後の生成物(灰や塵)、原子力発電所事故などの影響も含まれます。
日本人1人/1年間の総被ばく線量は3.75mSv(1992年原子力安全協会より)です。

自然放射線と人工放射線

自然放射線 人工放射線
自然界で必然的に受ける放射線 人工的に作られる放射線
空気中のラドンなどの吸入 医療被ばく(診断)
食物など(40K、14C) 職業被ばく
大地放射線 原子力発電
宇宙線宇宙線 核爆発実験2.0Gy/年

胎児に対する被ばく

胎児が放射線を受けた場合に問題になる影響は、次の5つがあります。
(1)胚死亡(流産)
(2)奇形
(3)精神発達遅延・発育遅延
(4)小児ガンの発生
(5)出生児の遺伝的影響

胎児期の放射線の影響を考えるには、さらに胎児の被ばく線量と胎児の胎齢(月齢)を考慮します。

胎児期の分類 時期 影響 しきい線量
着床前期 受精から9日 胚死亡 100mGy
器官形成期 2週から8週 奇形 100mGy
胎児期 8週から15週 精神発達遅延 120mGy
8週から出生 発育遅延 100mGy

ガンと遺伝的影響以外の(1)(2)(3)については、影響が発生する最小の線量である、しきい線量が存在します。(4)(5)については放射線防護の視点から、しきい線量が存在しないと仮定されていますが、胎児期の低線量被ばくでガンが誘発されるかどうかは、疫学調査の結果からは、はっきりした結論は出すことができません。また遺伝的影響についても明らかではありませんが、いずれにしても、自然発生のガンおよび遺伝的な疾患の発生確率に比べて、放射線誘発の確率はきわめて小さいと考えます。

胎児期の放射線被ばく 指導・説明
10mSv以下 問題発生しない
10mSv-100mSv 時期と場合を考える
100mSv以上 生まない方向で説得する

(胃のX線検査による母体の皮膚表面の被ばく線量は3~5mSvであり、胎児の被ばく線量は0.2~0.4mSv程度です。)

付録資料

ある航空機パイロットの記録

 <1994年6月>

路線 飛行時間 被ばく線量(μSv)
1 成田-シカゴ 11時間06分 43.69
3 シカゴ-成田 12時間43分 42.31
10 羽田-大阪 1時間02分 0.51
10 大阪-羽田 1時間06分 0.46
10 羽田-沖縄 2時間36分 2.57
11 沖縄-羽田 2時間13分 2.57
11 羽田-千歳 1時間32分 1.46
11 千歳-羽田 1時間32分 1.30
18 成田-パリ 12時間32分 37.10
20 パリ-成田 11時間00分 33.62
25 成田-名古屋 1時間14分 0.49
26 名古屋-ホノルル 7時間27分 18.60
27 ホノルル-名古屋 8時間00分 20.44
29 名古屋-成田 1時間12分 0.38
1994年6月合計 75時間25分 205.47

確定的影響のしきい線量

発症症状 しきい線量 発症時期
白血球減少 0.5Gy  
悪心嘔吐 1Gy  
50%致死線量 3Gy  
100%致死線量 7Gy  
初期紅斑 2Gy 2-3時間
皮膚の紅斑 3Gy 30日
脱毛 3Gy  
永久脱毛 14Gy 4-6週
無月経・不妊 3Gy  
(胎児の奇形発生) 0.1Gy  
胎児の発育遅延 0.1Gy  
白内障 15Gy (慢性被ばく)
皮膚の潰瘍 20Gy (慢性被ばく)
急性潰瘍 75Gy 2週

参考文献

医療科学社 あなたと患者のための放射線防護Q&A 草間 朋子
放射線のABC  社団法人 日本アイソトープ協会
改訂版やさしい放射線とアイソトープ 社団法人 日本アイソトープ協会