1. TOP
  2. ごあいさつ

ごあいさつ

隈部俊宏です。
2013年4月からこの北里大学で勉強させてもらうこととなり、12年が経過しました。短いようで長くもあり。でも知らないうちに還暦を過ぎ、もう残り1年ちょっとで第一線を退きます。ここまで脳神経外科医をやらせてもらったことに感謝しています。もう少し自分にできることをやりきって、静かにこの相模原の地を去りたいと考えております。
私には運命的な出会いをさせて頂いた偉大な師が何人もおります。
今も世界の脳腫瘍外科医・神経腫瘍専門医のトップを走り続けているMitchel S. Berger先生を紹介させて頂きます。 全く面識のない私が拙い英文の手紙を書き続け、1995年にSeattleのWashington Universityの准教授であったBerger先生に見学を受け入れてもらいました。夢のような時間だったと言えます。ちょうどご自身の教授選考があった時期であり、時々アメリカ国内へ出かけておりました。その間私は雄大なSeattleで、一歳になったばかりの長男と家内とお腹の中にいる次男とキャンプばかりしていました。その後1997年3月にBerger先生は恩師のWilson先生のいるUCSFのChairmanになりました。その後、怒涛の研究・臨床を進め、常に我々の世界のトップを走り続けていらっしゃいます。学会の講演で日本にいらっしゃったときの座長としての挨拶で、He is like the North Star to us - always guiding us, never wavering.と紹介させて頂いたことを記憶しております。
2016年に私が会長として開催させて頂いた第34回日本脳腫瘍学会の特別講演で、下記のような「次世代に送る十戒」を我々に送ってくれました。

The 10 commandments of the next generation

  1. You must believe in yourself and your ability to alter the life of another person and contribute to our profession of Neurosurgery
  2. You must strive to achieve a perfect outcome each and every day you care for another individual
  3. You must repeat to yourself every day when you enter the hospital or operating room, “I will give 110% today and stay focused no matter what I encounter”
  4. You must leave your personal problems outside of your professional world
  5. You must stay physically and mentally fit
  6. You must periodically evaluate your results and outcomes to determine if you are still making progress, on the plateau, or deteriorating
  7. You must always read and learn from others as well as from your failures and successes
  8. You must never compromise in your pursuit of perfection no matter what forces exist to have you accept less than perfection
  9. You must always make a decision and never be indecisive. If you do this you will always make more right than wrong decisions
  10. You must never be shaken or discouraged by a bad outcome or complication, but you must always feel the pain of the patient and their family and know that you have changed their lives forever. Mourn your errors, mourn your losses, but pick yourself up and fight for the next patient’s life

以下日本語に訳させて頂きます。

  1. 自分自身を信じ、自らの力で他者の人生を変え、神経外科という専門に貢献できると確信せよ。
  2. 日々、診療にあたるすべての場面で、最良の結果を目指して努力せよ。
  3. 病院や手術室に入るたびに、自らにこう言い聞かせよ。「今日は全力以上を尽くし、いかなる困難にも集中して立ち向かう」と。
  4. 私的な悩みは職場に持ち込まず、プロとしての自分を貫け。
  5. 心身ともに健康を保ち続けよ。
  6. 自らの診療成績と成果を定期的に見直し、進歩しているのか、停滞しているのか、あるいは後退しているのかを常に把握せよ。
  7. 成功からも失敗からも、他者からも、自ら常に学び続けよ。
  8. いかなる妥協も許すな。完璧を追い求める姿勢を貫け。それがたとえ困難に抗う道であっても。
  9. 常に決断せよ。優柔不断であってはならない。そうすれば、正しい判断が誤った判断を必ず上回る。
  10. 悪い結果や合併症に動揺してはならない。しかし、患者とその家族の痛みを心から受け止め、それが彼らの人生を変えてしまったという現実を忘れてはならない。失敗に喪失感を覚えるのは当然だ。だが、それを乗り越え、次の患者の命のために再び立ち上がれ。

涙が出ませんか?心が奮い立ちませんか?おそらくこの言葉はBerger先生自らが自分自身でそう思い続けて生きて来られたのだと、私は勝手に理解しています。 生きていられる時間は限られています。その中で自分に何ができるのか。私は北里大学の脳神経外科でともに頑張ってきた仲間がいて幸せでした。人は人に支えられているのとともに、誰かを支えています。本来の人間の持つ美しさをいつまでも忘れないようにして頑張って生きていきましょう。

令和7年7月16日