麻酔専修医取材ルポ
「“受け”と“ノート”のその先に」

 平日の朝8:00、カンファレンス終了とともに、エンジ色のスクラブに身を包んだ大勢の麻酔科医たちが一斉に各自の担当する手術室へと向かっていく。ここ北里大学病院の総合手術センターには27室の手術室があり、毎年約50-60名の臨床研修医と15名程度の専修医が麻酔研修で切磋琢磨している。

 北里の麻酔研修の特徴に、伝統的な「麻酔管理コンサルテーション・システム」通称“受け”がある。「上級医や専門医に自分の麻酔方法に関するコンサルトを受ける」ことから、そう呼ばれるようになった。この“受け”は麻酔専門医と研修医とで必ず1対1で行われる。初期研修医のみならず麻酔専修医(後期研修医)もこの“受け”中に麻酔方法のプランニングの修正、麻酔に関連する手技の指導、各術式への細かいアジャストメント、輸液や循環管理、呼吸管理に対するノウハウといったエッセンスを叩きこまれる。膨大な情報を書き留めるノートが必要になり、そこから北里オリジナルの「麻酔科研修ノート」が誕生することになる

  • 麻酔科研修ノート
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本田崇紘医師

 「初期研修時代から積み上げてきたノートの数はすでに6冊を超えています。」
そう答えるのは専修医1年目の本田崇紘医師(北里大出身)。折に触れてノートを開いて臨床に役立てているそうだ。実際にノートの中身を見せてもらうと、1症例につき見開き2ページを使って麻酔法や術式、研修すべきポイントなどを整理して記載できるようになっている。もちろんノートの使い方は各自の自由で、担当する麻酔をチャート式に書くもの、要点を箇条書きにするもの、表紙の裏や背表紙には重要な表(例えば小児のバイタルサイン正常値表など)などを貼っているものもいる。

不聞一貴医師

 麻酔科専修医2年目の不聞ふもん一貴医師(秋田大出身)は、初期研修を他施設で行ったのち、北里大学病院の麻酔科に入局した他大学組の一人だ。北里に来た感想を聞くと「正直、最初は毎日ハードでしたね。初期研修医時代に感じたゆとりは残念ながら今はない。でもとっても充実しています。」
 そんな彼は北里の独自の“受け”や“研修ノート”についてこう語っている。
「上級の先生たちが個別に指導してくれることは見学の時に説明があって知っていましたが、オリジナルのノートの存在は来てから知りました。先輩たちにもよく言われますが、キツキツに働いている時こそミスをしやすい。だから疲れてきた時こそがっつりノートに頼ります。研修ノートで担当症例に関する認識を充実させておくと、きっとミスを防ぐツールにもなると思うんです。」

神田可奈子医師

 神田可奈子医師(北里大出身)は専門医受験目前の専修医だが、研修医同様に“麻酔科研修ノート”を小脇に抱えて走り回っているという。その理由をこう語っている。
「今の自分にとって何が麻酔の目標で、明日の症例にはどんな知識やスキルが求められているのか、ノートに書きだすことで漫然と仕事を消化する事がない」

関田昭彦医師

 取材の最後に初期研修医の教育担当で兄的存在でもある関田昭彦医師(北里大出身)に、北里での研修を考えている医師にむけてメッセージを求めると、
「結局は自分ですね、“受け”やノートを活かせるかどうかは。僕自身、最初は教えてくれる上級医の言うことをひたすらノートに書き込んだけれど、途中からそれじゃ進歩しないって感じて、自分で調べたことを書くようになった。それがその手術麻酔で役立った結果、外科医や患者さんから感謝されたりすると、すごくうれしくて。次は後輩にそれを体験してほしくて、“受け”であえてすべてを語らずに課題を出したりしています。」

 ここ北里大学病院麻酔科では、オリジナリティあふれる教育で人を集め、育ったものがまた人を育てる、良好な循環を形成している。

取材、文:麻酔DMK編集部