ミトコンドリア脳筋症

Mitochondrial encephalopathy、myopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes (MELAS)は1984年に報告された脳卒中様発作、痙攣、片頭痛様頭痛を特徴とするミトコンドリアDNA異常に基づく遺伝性疾患で、ミトコンドリア脳筋症の病型の一つです。
脳卒中様発作は,MELASに特徴的な発作で、画像上脳梗塞に似た病変を生じます。従来から脳卒中様発作の発症機序としてmitochondrial angiopathyによる虚血性障害説とmitochondrial cytopathyによる細胞内代謝障害説が提唱されてきましたが、未だにその病態は明らかになっていません。私たちは臨床的データに基づいて「神経細胞の興奮性の亢進(neuronal hyperexcitability)が脳卒中様発作の病態の中核を成しており、それが一連の病態を惹起しながら細胞内代謝を障害させ、脳梗塞に似て非なる「脳卒中様発作」を生じるという「神経細胞興奮性亢進仮説」を2002年にNeurologyに報告しました。2003年には「脳梗塞様の皮質病変が周辺皮質に連続的に進展・移動する」という脳虚血では全く説明できない現象であることを初めて報告しました。また同年、片頭痛の病態で提唱されている「三叉神経血管系の活性化がMELAS患者の頭痛発作においても関与している可能性があること」をNeurologyに報告し、2005年にはその後に集積された自験例の臨床データに基づき、「非虚血性神経血管説」としてまとめ、脳卒中様発作の病態について総説を執筆しました。

2007年には、MELAS患者において脳血管反応性を検討し、脳卒中様発作発症前には局所脳血管反応性は保たれていることが示し、2009年にはMELASとは異なる表現型を有する頸動脈狭窄性病変を伴った新しいミトコンドリア病を国立精神神経センターの後藤雄一先生との共同研究で報告しました。2010年には、これまで集積してきた臨床データと、脳におけるneuron-astrocyte communicationに着目し、脳卒中様発作の細胞障害機序における新しい病態仮説を提唱し、Future Neurologyに報告しました。現在、MELASの脳の病態についてさらに深く探っています。

現在進行中の臨床研究について

ミトコンドリア脳筋症における脳卒中様発作の病態に関する臨床研究

2017年10月27日

患者さま医療情報の研究利用について


MELASは、乳酸アシドーシス、頭痛、痙攣および脳卒中様の発作を特徴とする、ミトコンドリアの障害によって生じる疾患(ミトコンドリア病)の一つです。ミトコンドリアは身体中の細胞に存在し、細胞機能の維持に必要なエネルギーを産生しています。このミトコンドリアの働きが低下するため、全身臓器の細胞機能が障害されることにより様々な症状が出現します。ミトコンドリア病には、様々病型が知られていますが、中でもMELASは、小児・成人において最も頻度の高い病型です。
MELASは、主にミトコンドリアの中にある遺伝子(ミトコンドリアDNA)の変異によって生じますが、なぜ、脳卒中様発作が生じるのかは十分解明されていません。MELASの動物モデルがなく、ヒトでの臨床データの解析が、病気の仕組みを解明する唯一の手がかりです。
現在まで、様々な脳卒中様発作の病態仮説が提唱されてきていますが、決定的なものはありません。また、脳卒中様発作の病態も均一なのか、不均一なものかも明らかにはされていません。 この度、北里大学医学部神経内科学では、MELASにおける脳卒中様発作の病態と病型を明らかにする目的で、MELASの脳卒中様発作に関する後ろ向き調査を実施することになりました。対象となるのは、1990年1月1日~2018年4月1日までの間に、北里大学病院、あるいは北里大学東病院神経内科にミトコンドリア病の疑いで入院、あるいは神経内科を受診した患者さまです。調査項目は、発症時の年齢、性別、臨床症状、臨床診断、頭部CT・MR画像、脳血流SPECT、脳波、血清および髄液検査所見、治療内容、重篤な合併症の有無、臨床経過、入院時、退院時および最終受診時の機能予後です。これらの情報を分析・保存する上で、全ての患者さまは匿名化され、氏名や住所などの患者さまを直接特定できる個人情報は削除します。収集したデータを基に、臨床病型、画像所見、臨床経過、治療、合併症および機能予後との関係を評価します。これらのデータは、外部からアクセスできない北里大学新病院内のコンピューター内に電子媒体として保存され、厳重に管理されます。研究終了後、データは消去されます。研究成果は学会や雑誌などで報告されることがありますが、氏名や住所などの個人情報は一切公表されることはございません。

本研究の調査対象に該当する患者さまで、診療情報の研究への使用に同意されない方は、2018年9月1日までにお申し出ください。なお、本調査に同意をされない場合でも不利益が生じることはありません。また、本研究に関してご質問などがございましたら、下記の連絡先までご連絡ください。

連絡先
〒 252-0374
神奈川県相模原市南区北里1-15-1
北里大学医学部 神経内科学
研究責任者:飯塚高浩(いいづか たかひろ)
TEL: 042-778-8111(代表)

主な業績

  1. Iizuka T, Sakai F, Suzuki N, Hata T, Tsukahara S, Fukuda M, Takiyama Y. Neuronal hyperexcitability in stroke-like episodes of MELAS syndrome. Neurology. 2002;59:816-824.
  2. Iizuka T, Sakai F, Endo M, Suzuki N. Response to sumatriptan in headache of MELAS syndrome. Neurology. 2003;61:577-578.
  3. Iizuka T, Sakai F, Kan S, Suzuki N. Slowly progressive spread of the stroke-like lesions in MELAS. Neurology. 2003;61:1238-1244.
  4. Iizuka T, Sakai F. Pathogenesis of stroke-like episodes in MELAS: Analysis of neurovascular cellular mechanisms. Current Neurovascular Research. 2005;2:29-45.
  5. Iizuka T, Sakai F, Ide T. Miyakawa S, Sato M, Yoshii S. Regional cerebral blood flow and cerebrovascular reactivity during chronic stage of stroke-like episodes in MELAS -Implication of neurovascular cellular mechanism. J Neurological Science.2007;257:126-138.
  6. Iizuka T, Goto Y, Miyakawa S, Sato M, Wang Z, Suzuki K, Hamada J, Kurata A, Sakai F. Progressive carotid artery stenosis with a novel tRNA phenylalanine mitochondrial DNA mutation. J Neurol Sci. 2009;278(1-2):35-40.
  7. Iizuka T, Sakai F. Pathophysiology of stroke-like episodes in MELAS: neuron-astrocyte uncoupling in neuronal hyperexcitability. Future Neurology, 2010;5:61-83.