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胸部大動脈内ステントグラフト内挿術
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ステントグラフト内挿術は,1990年アルゼンチンのパロディらによって始められた各種大動脈瘤に対しての最新の治療法です。当院に於いても1995年より本法を大動脈疾患に対する治療法の一つとして位置づけ積極的に行ってきました。
ステントグラフトとは、ステント部分とグラフト部分より成り立ちます。ステント部分はステンレスの針金をZ状に折り曲げ伸縮性を持たせ、これを円筒状に丸め静電溶接を行い作成します。このブロックを3ないし4個、手術用ポリプロピレン糸で連結しステント部分を作成します。グラフト部分は、通常の人工血管置換術で使用される人工血管と同じウーヴンダクロンから成っています。このグラフト部分を先のステント部分に被せポリプロピレン糸で固定しステントグラフトを作成します。 |
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このステントグラフトは、短軸方向の伸縮性に富むため、直径約7mmの管(シース)の中に収納することができます。このシースの中に納めたステントグラフトを、足の付け根にある大腿動脈より挿入し、大動脈瘤の部位に進め内側から大動脈瘤を覆うようにステントグラフトを放出します。 |
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実際の治療例 |
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Aさん(72歳,男性)は、検診で行った胸部レントゲン写真で胸部大動脈瘤の疑いがあるとして、かかりつけの先生より当科に紹介になった患者さんです。
胸部CTを行ったところ、近位下行大動脈にピンポン球大の嚢状瘤が認められました。外来にて降圧療法を行い経過を観察していましたが、徐々に拡大傾向にあったため外科的治療の適応と判断しました。血管造影検査などを行い、従来の人工血管置換術と最新のステントグラフト内挿術が可能であると判断されたため、二つの治療法の利点、問題点などについて十分にご説明いたしました。ご本人およびご家族より、ステントグラフトによる治療を希望されるとのお返事を頂戴したため手術をプランしました。
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手術は、全身麻酔下で右大腿部に約4cmの切開をおき大腿動脈を露出し同部よりシースを挿入し動脈瘤の部位まで進め、同部でステントグラフトを放出しました。術中造影検査を行い、大動脈瘤内に血液の流入が無くなったことを確認し手術を終了しました。手術時間は1時間55分でした。 |
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術後経過順調なため術後10日目に退院となりました。
術後1年目のCTでは胸部大動脈瘤は消失し、現在術後1年7ヶ月を経過しお元気に生活されています。
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ステントグラフト内挿術の問題点 |
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本術式は、手術時間が短く患者さんへの侵襲も少ない治療法ではありますが全く問題がないわけではありません。以下、その問題点のいくつかについて簡単に解説します。
適応に制限があります。
本治療法は、大動脈疾患を有するすべての患者さんに行えるものではありません。現時点では、大動脈病変部に重要な分枝が存在する場合、また非常に近い位置に重要な分枝が存在する場合にはこの治療法を選択することができません。この制限を無視し大動脈内ステントグラフト内挿術を行うと、重要な臓器への血流が途絶え重篤な合併症を生じてしまいます。そのため、術前に大動脈造影等を行い大動脈病変と分枝の位置関係を正確に把握することが必要となります。
長期成績が不明確です。
世界的に見ても本治療法の歴史は10年余りです。10年以内には大きな問題は生じていませんが、10年以降についてはどのような問題が起こってくるのかはまだ誰もわかりません。私どもも注意深く術後の患者さんの経過を観察しています。
市販のステントグラフトが存在しません。
ステントグラフト内挿術は、平成14年4月より厚生労働省より認可され、健康保険が適応となりましたが、実際に使用するステントグラフトそのものは未だ認可されている製品がありません。そのため、すべてのステントグラフトは、患者さんの大動脈径や病変の形状に合わせ私どもが作成しています。
追加手術が必要になることがあります。
ステントグラフト内挿術は従来の人工血管置換術と異なり、縫合を行っていません。そのためステントグラフトが移動したり、両端から血液が大動脈瘤内に流れ込む可能性があります。この場合、追加ステントグラフト内挿術を行ったり、人工血管置換術が必要となることがあります。
以上、胸部大動脈内ステントグラフト内挿術について簡単にご説明致しました。当科では、ステントグラフト内挿術はもちろん従来よりある人工血管置換術も積極的に行っています。
私どもは、常に患者さんにとって最良の方法での治療を心がけています。そのためには、患者さんご本人はもちろんそのご家族とも十分にお話をした上で治療方針を決定していきます。
胸部大動脈疾患について、お知りになりたいことがございましたらご連絡下さい。
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文責:町井 |
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3D-CTによる術後評価(マウスクリックで画像拡大可) |
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