このページでは、今まで当センターを卒業していった先生方が、現在どのようなフィールドで仕事をしているのかをご紹介し、今後の救急医の展望を考えてみたいと思います。
皆さんにとって救急医とはどんな医師でしょうか?
日本救急医学会のHPから同学会代表理事の有賀徹先生のお言葉を引用すると、
「人の身体を単に臓器別に細分化するものではなく、身体を分析的かつ統合的に把握しつつ、患者にとって今何が必要か、後から悔いを残さないように早速やっておくことは何なのかなどと総合的に診療を進める医療の専門家であり、内因性であれ、外因性であれ、急性に発症した様々な病態について、果敢に対応できる能力を有する医師」
と説明しています。
当院の救急医の中では、急性疾患のトータリストと考える先生もいれば、救急外来に来た患者さんは何でも見るということから救急外来の小学校の先生(小学校の先生は、国語、算数、理科、体育、音楽など全部指導している)と考える先生もいる、プレホスピタル、ER、集中治療のコンダクターと考える先生もいれば、病院内の仕事に加えて 社会の体制作りにも携わる医師と考える先生もいます。すべて正解だと思います。救急医という職種にこのような仕事をしなさいという定義はなく、現場で必要とされていることを患者さん中心にマネージできる医師が救急医だと思います。救急医が10人いたら得意なこと、やりたいことは、みんな違いますが、10人全員が急性期疾患の診断、初療はしっかりできるということは間違いありません。
例えが正しいかはわかりませんが、宇宙からみてみると、ある救急医はアメリカ、ある救急医はフランスというほどバラバラではなく日本という範囲には収まると思いますが、北は北海道から南は沖縄までというように非常に幅の広い医師集団ということになり、決して日本の神奈川県というような狭い範囲に集まるということはないという点でほかの科と非常に異なり、よく将来が見えないといわれる誤解につながるのだと思います。将来はひかれているものではなく、自分で動いて、考えて築いていくものだと考える医師にはぴったりなのだと思います。
手術ができる救急医、手術をしない救急医、プレホスピタルに情熱を注いでいる救急医、ERで診断、初療に長けている救急医、集中治療に長けている救急医、IVR、内視鏡、気道管理、呼吸管理、循環管理、栄養管理、感染管理、血液浄化、外傷、心肺蘇生、中毒、精神科的アプローチ、東洋医学的アプローチ、mass gathering medicine、研究、シミュレーション教育を含めた医学教育、メディカルコントロールを含めた救急隊教育、地域の救急医療体制などなど臨床、研究、教育を飛び越え、行政、社会にまで広がる情熱を注ぐには十分な分野が救急医療のフィールドです。
上記のような現場で必要なことを通じて個人が学びたい、習得したいと思ったものをすべて学べるのが当センターの救急医療です。決まったレールはありません。どちらかというとないのが当たり前なのだと思います。必要なものの優先順位はその医師の将来設計など、将来何をしたいかなどによって全く変わってしまうと思っています。一つはっきり言えることは、3次救急患者が年間2500前後という症例が非常に多い当センターで研修をすれば、将来何をしたいか、どんなタイプの救急医になりたいのか必然的に答えは出てくると思います。
救急を一生やらなくても、急性期管理を徹底して学ぶことでどの分野に行っても無駄になることはありません。
当院で後期研修プログラムを3年間終了すると救急医学会の専門医の受験資格が得られます。この3年間は、当センターでの勤務が原則になりますが、個人の意思に合わせて様々な研修様式が可能です。更に希望があれば、当大学卒業生がアメリカミネソタで救急医として活躍している現場の見学ツアーを企画中です。
最短で後期研修開始4年目で救急専門医、10年目で救急指導医が取得可能になります。 具体的なポジションとしては、
⇒大学以外の分野で勤務するときは、救急医というトータルでマネージメントすることができる医師という基本に加え、個人が得意にしているところを上乗せした新しい医療が展開できます。例えば、整形外科で開業しても、患者さんの要望に応え、内科の管理もできる開業医になり、ひざや腰が痛いなどで病院通いがつらい患者にとっては一つの病院の通院でよくなり顧客満足度の高い医療が展開できると考えます。
この間、女性医師であれば、結婚、出産、育児などの人生での大きなイベントを迎えると思います。当センターでは、女性のみならず人生のイベントに関して各個人のワーク・ライフバランスを考え、相談しながら仕事の割合を減らすことも可能です。ちなみに妊娠中は、週数に合わせて通院時間の確保はしっかりとれ、産前は7週間、産後は8週間(本人の希望で6週に短縮可能)までは休業可能、また育児休暇は、1歳の誕生日までは取得可能、ちなみに産休、育休と違って無給になりますが介護休暇も可能となっています。
育休後の勤務も当センターでは、救急の専門医取得後であれば、個人の希望に応じたフレキシブルな勤務も可能で歓迎いたします。たとえば、育休後、週に1回で、1回3時間(11時~14時)の勤務がいいということであれば可能です。この間救急外来のホットラインの対応を中心にやっていただき、自分が育った環境で先輩・後輩がいる中、サポートを受けながら復帰トレーニングが可能です。外来が来てないときは、病棟の患者の手技や処置を若い先生に指導する立場として活躍していただくことができます。このような先生が多くなれば、常勤の先生の負担が減ります。勤務時間が長くできる用になれば、救急医を必要としている地域の病院での勤務も可能になります。繰り返しになりますが、当院は救急専門医取得後の女性医師のフレキシブルな勤務を歓迎いたします。
女性医師に限らず、当センターでは、下記の図1に示したような仕事、家庭、個人のワーク・ライフバランスを大事に考えております。仕事だけ頑張るという人はワーカホリックな状態であり、健全ではないと考えます。当センターで望んでいる医師像としてはワーク・エンゲイジメントの高い医師です。日本にこの概念をオランダから持ち込んだ島津先生の本から引用すると、ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、「活力」、「熱意」、「没頭」によって特徴づけられるとされています(図2)。ワーク・エンゲージメントの高い人は、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て生き生きとしている状態にあるといえます。このような状態を保つには、仕事、家庭、個人のワーク・ライフバランスを考えながら、それぞれのライフスタイルで3つの車輪のバランスを考えながら、個人のバランス、他の同僚のバランス、そして全体のバランスを考えてマネージするというのが今後の当センターの課題となると考えます。
救急外科、救急IVR、救急脳神経外科、救急整形外科、救急形成外科、救急消化器内科、救急精神科。それぞれに指導医・専門医がいるので安心して研修が行えます。
栄養サポートチーム(NST)、呼吸サポートチーム(RST)、Rapid response team(RRT)、感染制御チーム(ICT)、リハビリテーションチーム、精神科サポートチーム、嚥下サポートチーム、移植支援チーム、これら各チームが集まったものをトータルサポートチーム(TST)と称し平日毎朝15-20分の回診兼デブリーフィングカンファレンスを行っています。