脳神経外科(小児神経外科)
Neurosurgery

脳神経外科 師田 信人

新生児期から移行期医療まで、こどもの脳・脊髄病変の外科治療を安全・確実に遂行することを、NICU・PICU・小児病棟スタッフとのチーム医療で目指します。
小児神経外科としての活動は始まったばかりですが、北里大学周産母子成育医療センターの一員として、また北里大学脳神経外科の一部門として、これからの飛躍を期しています。

『小児神経外科』とは?

小児神経外科は、赤ちゃん(場合によってはお母さんのお腹にいる赤ちゃんも含めて)から思春期までの、成長過程にあるこどもの脳と脊髄疾患の外科治療を受け持ちます。脳神経外科の一専門領域ですが、新生児からいわゆるAYA世代までの、全ての疾患領域をカバーしないといけないという奥行きがあります。小児で、成人と異なる一番の特徴は“成長”の要素があることです。外科治療を行うことで、未熟な脳や脊髄の成長・発展を促すと同時に、成長に伴い追加手術が必要になることも織り込んで長期的な治療計画・手術方法の選択を考える必要があります。
小児神経外科で治療する疾患は、大きく分けて水頭症や二分脊椎のように先天異常を背景に持つ病気、脳腫瘍などの腫瘍性病変、大人ほど多くはありませんがモヤモヤ病や脳動静脈奇形などの脳血管障害、頭部外傷、その他の疾患となります。それぞれ、基本的な手術から複雑な手術までありますが、手術の役割は状況によって一つ一つ異なってきます。先天異常による病気では、先天異常そのものを治すことはできなくとも二次的に派生する病態・症状の出現を予防あるいは治療することが目的になります。また、異常をきたした神経組織を可能な限り形態的に修復して神経機能の改善を目指すこともあります。腫瘍の手術でも、可能な限り一回の手術で摘出することを目指しますが、腫瘍の性状・部位によっては計画的・段階的に手術を進めていく必要が生じることもあります。他の治療法との組み合わせも大切になります。さらに、一部には年齢依存性に増大する腫瘍もあり、腫瘍との共存を図るという発想が必要になることもあります。治療は必ずしも一筋縄で論じることができないのです。
小児神経外科で治療するこどもの多くはなんらかの障がいを抱えて生きていくことになります。外科治療を通して、背負った障がいを少しでも軽減できるようにすると同時に、本人・家族が納得して障がいに向き合えるような、そんな医療を目指したいと思っています。小児神経外科医としては、一つ一つの手術を合併症なく遂行し、こどもだけでなくご両親とも気持ちの繋がった医療ができればと願っています。また、そのためにも、小児科・産科・リハビリテーション科をはじめとする専門各科の医師・医療スタッフと連携したチーム医療を目指していきます。

主に取り扱っている疾患

  1. 水頭症
    基本はVPシャント(脳室腹腔短絡)術で治療しますが、できるだけ神経内視鏡による治療(第3脳室開窓術、脈絡叢焼灼術など)を目指しています。嚢胞性疾患を伴う場合は、神経内視鏡による開窓術が第一選択になります。水頭症は小児神経外科の基本的手技です。基本的手術だからこそ、合併症のない確実な手術を行います。水頭症治療の術式選択にあたっては、ご両親の希望にも配慮して治療法を決定するようにしています。
  2. 二分脊椎・脊髄係症候群
    脊髄が体表に露出している脊髄髄膜瘤では出生後24~48時間以内に修復術を行います。潜在性二分脊椎の代表である脊髄脂肪腫は、その形態・発生時期に応じて根治的切除術あるいは部分切除術を実施します。手術にあたっては術中神経生理学的手技を行い、排尿・下肢運動感覚などの神経機能温存に留意します。先天性皮膚洞・脊髄終糸脂肪腫などの疾患も臨床症状・画像診断をもとに手術適応を判断し治療を行います。また、生後早期に初回手術を受けたこどもが成長に伴い脊髄係留症候群(排尿機能悪化、下肢しびれ・痛みの出現、運動機能低下など)を生じた場合には、手術難易度は高くなりますが脊髄係留解除術を行い症状の改善・進行予防を図ります。
  3. 頭蓋骨縫合早期癒合症
    形成外科と合同で治療に取り組みます。年令・骨癒合部位・症候性(手指癒合症など他の先天異常を合併)かどうかなどをもとに、内視鏡下骨癒合部切除、頭蓋延長機装着、あるいは骨形成的頭蓋拡大形成術を実施し、頭蓋内圧の管理および整容面の改善を図ります。手術は必要に応じて計画的に複数回手術を予定したり、術後のヘルメット療法と組み合わせたりします。
  4. 頭蓋頸椎移行部病変
    小児の頭蓋頸椎後部病変としてはキアリ奇形がよく知られています。他にも骨・代謝性疾患(軟骨無形性症など)に合併した大後頭孔狭窄、複雑な骨異常に合併した環軸椎亜脱臼があります。キアリ奇形や大後頭孔狭窄には大後頭孔減圧術を行いますが、病態を評価して最適な減圧範囲・手術手技を選択します。不安定性を伴った環軸椎あるいは後頭骨環椎亜脱臼に対しては後方除圧および頭蓋頸椎固定術を、小児の骨発達度合いに応じた方法で治療します。手術の難易度も高く専門性の高い領域ですが、術中神経生理学的手技を併用し、安全かつ確実な手術を目指しています。
  5. 脳・脊髄・頭蓋骨腫瘍
    こどもの中枢神経系腫瘍の種類は多彩で、診断・治療も必ずしも一筋縄でいかないことがあります。治療の原則としては、良性・低悪性度腫瘍が疑われるときは一期的に全摘出術を目指します。高悪性度腫瘍に対しては、部位・疑われる腫瘍の性状に応じて初回から全摘出術を目指す場合と、まず生検術で腫瘍の病理診断を行い、その後に化学療法・放射線療法あるいは二期的に全摘出術を目指す場合があります。脳室に接した腫瘍であれば神経内視鏡を積極的に用いて生検術を施行すると同時に、必要に応じて合併する水頭症治療も同時に手術します。脳腫瘍の治療は、北里大学脳神経外科が最も得意とする分野です。それぞれの領域のエキスパートが協力して、最適の治療を目指します。
  6. 脳血管障害
    脳動静脈奇形(AVM)治療は脳神経外科血管内治療グループと共同で塞栓術・外科治療を組み合わせて治療します。モヤモヤ病に代表される虚血性脳血管障害には、血行動態を解析した上で頭蓋内外血管吻合術(直接あるいは間接)を病態に合わせておこないます。
  7. 外傷
    救急部と協力して小児頭部外傷の治療に取り組みます。社会的に問題となっている小児虐待については、北里大学CAPS (Child Abuse Prevention System)委員会の一員として、対応しています。
  8. 機能的疾患
    脳性麻痺、あるいはその他の中枢神経系障害によって引き起こされる痙縮(手足の突っ張り)には機能的脊髄後根切断術あるいはバクロフェン髄腔内投与療法を行います。手術に先立ち、 約一週間余りの検査入院をして機能評価を行います。手術にあたっては整形外科・小児神経・リハビリテーション科とのチーム医療で取り組み、術前・術後の検討会、術後機能訓練を行います。

診療実績

2018年10月から実質的な診療体制を整えつつスタートしたばかりです。現在、着実に手術実績・治療成績を積み重ねているところです。

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