患者様へ

ペインクリニックについて

痛みでお困りの患者様へ

浜辺で犬を散歩させる夫婦

同じ痛み刺激を受けても人により痛みの感じ方が異なります。その人の性格やそれまでの痛み体験によっても感じ方は異なりますが、痛み刺激が過度に続くと、痛みを伝えたり感じたりする神経組織(痛み刺激反応系)に変化を生じ、この変化が痛みの感じ方を変えていきます。痛みの発生原因となった怪我や病気がすでに完治していても痛みが持続するのは異常化した痛み刺激反応系のためであることも少なくありません。その場合、しばしば通常の鎮痛薬は無効であり特殊な薬が必要となります。さらに、人は痛みを感じると自分なりに解釈し、安静または運動、局所の冷却または加温などの行動をとります。この行動によっても痛みが増強したり新たな痛みが追加されたりします。痛みは他人に体験できず、客観的に測定することもできませんが、痛みを治療するには痛みの診断が重要となります。病気が同じで痛む部位も同じでも痛みは異なります。痛みを緩和させる民間療法が多数存在しますが、痛みを診断しないで治療することは危険です。それぞれの痛みに対して治療法が異なりますので、痛みが長引いたり、異常な痛みを感じたときにはペインクリニックを受診することをお勧めします。

ペインクリニックというと神経ブロック(神経周囲に局所麻酔薬を投与する注射)をするところという印象が強いと思います。確かにすぐに神経ブロックを行う施設もございますが、本院ではすぐに神経ブロックを行うことは少ないです。最小の侵襲で、最短で、あるいは楽をして(?)痛みを取ろうと考えるからです。そのため、視診、触診、問診の他、整形学的所見、神経学的所見、精神学的所見など、診断に多少の時間と手間を掛けますが、その分、スマートに痛みが緩和される可能性が高くなります。本院に於きましては、光線治療(キセノン光)や電気治療(直流不変電流通電)などの低侵襲治療、種々の薬の点滴治療および内服治療のデータが豊富であり、各々の治療の利点と欠点を必ず患者様に説明して納得を頂いてから治療を行っております

本院では、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、フェイルドバック症候群など、器質病変による痛みの治療も行っています。交感神経節フェノールブロック、椎間板内加圧注射、硬膜外鏡下神経剥離術(エピドラスコピー)など、専門性の高い特種ブロックは中央手術室において週2-3症例のペースで行っております。

また、本施設では研究活動を盛んに行っております。アメリカ麻酔科学会(ASA)、カナダ麻酔科学会、日本ペインクリニック学会、日本麻酔科学会等で毎年多くの研究発表をしております。ASAは世界で最もレベルの高い麻酔科学会のひとつですが、そこでは特に優秀な研究がポスターディスカッション(PD)に選ばれます。2005年のASAペインクリニック臨床部門では世界で8題がPDに選ばれ、そのうち6題が本施設の研究でした。研究内容はPain、Anesthesiology、Clinical Journal of Pain、Headache、British Journal of Anaesthesia、Anesthesia & Analgesiaなどの主要な欧米誌に採択されました。2011年に「秦藤樹博士記念学術奨励賞」と日本ペインクリニック学会第45回大会「優秀賞」を受賞、2012年に日本麻酔科学会第59回学術集会「優秀演題」を受賞しました。これらの研究は臨床で患者様にすぐに還元できるものが中心です。私どもは、一人でも多くの患者様が、また、一つでも多くの痛みが緩和できるよう、日夜励んでおります。医学的根拠に基づいた痛みの診断と治療を提供できると自負しております。

ペインクリニック常勤医師

医師名 職位・役職 資格
金井 昭文 北里大学医学部付属
新世紀医療開発センター 教授
麻酔科指導医
ペインクリニック専門医
遠絡療法指導医
林 経人 北里大学医学部麻酔科 助教 麻酔科専門医
嶋尾 淳子 北里大学医学部麻酔科 助教 麻酔科認定医
星山 有宏 北里大学医学部麻酔科 助教 精神科指導医
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医・指導医
日本総合病院精神医学会一般病院連携(リエゾン)精神医学特定指導医
日本サイコオンコロジー学会登録精神腫瘍医
河村 直樹 北里大学医学部麻酔科 助教 日本内科学会認定内科医
日本麻酔科学会麻酔科認定医
臨床研修指導医

ペインクリニックの役割

ペインクリニックの役割

1.急性痛治療

発生したばかりの痛みが急性痛です。手術には急性痛が伴います。手術中は麻酔科手術麻酔部門、手術前と手術後は麻酔科疼痛治療部門が担当します。手術前の痛みを放置すると手術後の痛みが増強します。痛みの放置は慢性痛への移行を促進します。手術後の痛みは不快感を経験させるだけでなく、痰を出しにくくして肺炎にさせたり、体を自由に動かせなくして深部静脈血栓症にさせたり、手術の傷の回復を遅らせます。そのため、麻酔科では積極的に周術期疼痛管理をしています。

急性痛はそもそも身体の警告信号であり、生命に関わる病気に伴う痛みも含まれます。手術などの痛みの原因が明確なもの以外に、前触れなく発生する急性痛があります。その場合、原因検索と治療を急ぐ必要があります。入院、外来に拘わらず、患者様には先ず主治医科を受診して頂きます。原因検索と治療の経過中の著しい痛みには、主治医科との相談のうえ麻酔科で対応することがあります。

急性痛にはアセトアミノフェン、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、オピオイドなどの鎮痛薬の他、硬膜外ブロック、脊髄くも膜下ブロック、末梢神経ブロックなどの神経ブロックを用います。

2.慢性痛治療

慢性痛とは本来、病気が治る時期を過ぎても続く痛みです。病気で痛みが発生した場合、痛みが神経を伝わり、脳で感じて、体の各所に反応が出ます。この痛みに関わる体内の動きが異常化したのが慢性痛であり、痛みの切っ掛けを作った病気の有無は関係ない状態です。慢性痛そのものが病気と言えます。慢性痛の診断と治療は麻酔科疼痛治療部門が担当します。ただし、中々治らない病気は多く、病気に伴う痛みが通常3カ月以上続くと慢性痛と呼ばれることがあります。ここでも痛みの体内処理の異常化が起きますが、痛みは病気の状態を反映するため、主治医科との連携で慢性痛の診療に当たります。

痛み刺激反応系

すべての痛みは不快な感覚体験(痛みの場所、強さ、性状)と感情体験(不安、緊張、恐怖、抑うつ、悲哀、嫌悪、怒りなど)から成ります。しばしば感覚体験のみが注目されますが、特に慢性痛は感情体験も共に診て治療しないと改善しません。また、痛みを体験すると無意識的または意識的に痛みを認知・評価し、痛み反応(便秘、高血圧、動悸、発汗、めまい、不眠など)と痛み行動(動作制限、安静または運動、逃避または通院、利得行動など)が誘導されます。痛み反応や痛み行動が問題になることが少なくありません。痛み行動は次第に痛みと独立し、痛み消失後にも長く続くことがあります。

末梢神経系

痛ければ先ずは鎮痛剤を使用する風潮があります。しかし、上述したように慢性痛の原因は複雑多岐にわたり、意識や生活習慣を変えるだけで消失する痛みもあります。我々は痛みの背景や成り立ちに目を向け、科学的に診断して治療する医療部門です。

3.がん性痛治療

がん患者のおよそ30%、終末期には70%に痛みが発生します。がん性痛にはがん自体による痛みとがん治療(化学療法、放射線療法)による痛みがあります。がん特有の痛み関連物質があること、がんと生体が反応して様々な併発症状が現れること、放置すると生命を脅かすことなど、非がん性の痛みと異なります。痛み以外の身体的苦痛も多く、この診療を我々が担当します。

身体的苦痛


北里大学病院はがん診療連携拠点病院であり、緩和ケアチームがあります。緩和ケアチームはペインクリニック専門医、麻酔科指導医、精神神経科専門医、がん専門看護師、がん指導薬剤師などの専門家で構成され、生命を脅かす病気に直面した患者と家族の苦痛の予防と軽減を図ります。がんを含めた生命を脅かす病気には身体的苦痛の他、精神的苦痛、社会的苦痛(仕事、家庭、経済上の苦痛)、スピリチュアルな苦痛(自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛)が加わります。チームで一丸となり、問題を早期から正確にアセスメントし、解決し、可及的速やかに生活の質の向上を目指します。

緩和ケアチームは外来と入院で対応しますが、チーム単独で診療することはなく、病気の診療に当たる主治医科との併診になります。在宅医との密な連携もあり、近隣在宅医とは定期的にテレビカンファレンスを開き、情報交換を行っております。

苦痛