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特徴的な診療2 腎移植


特徴的な診療

北里大学病院泌尿器科における腎移植について

北里大学病院では1972年から腎移植を開始し、現在までに550例を超す腎移植術(献腎移植 150例以上)を行っており、豊富な診療実績を有する腎移植センターとなっています。

図1

泌尿器科の中には腎不全外科部門があり腎移植、血液透析のためのバスキュラーアクセスと呼ばれる動静脈シャントの手術、腹膜透析のためのペリトネアルアクセスと呼ばれる腹膜透析用カテーテルの挿入術などを行っています。

また、神奈川県内で腎移植ドナーが発生した場合はこのチームが腎臓摘出を担当することが多く、絶えずこれらの事態に対応すべく待機しています。

腎移植について

A. 腎臓の働き、腎不全と腎移植

腎臓の主な働きは、体の中を流れる血液を濾過して尿をつくることです。

  • ・老廃物の排出
  •  − 尿の希釈および濃縮

     − 糖・アミノ酸の再吸収

  • ・体液の恒常性維持
  •  − pH調節

      ・重炭酸イオンの再吸収

      ・近位尿細管におけるアンモニアの産生分泌

     − 電解質調節(Na+,K+,Ca++など)

     − 水分調節

  • ・内分泌
  •  − レニン産生による血圧の維持

     − エリスロポエチン産生

     − ビタミンD3の活性化

      ・腎臓に対しては、カルシュウムの再吸収を促進

      ・prostaglandins and kinins

  • ・代謝
  •  − タンパク質の代謝

     − インシュリンの分解

    この働きにより、血液中の老廃物や余分の水分が尿として体の外に排泄され、体の中は一定の状態が保たれています。そこで、塩辛い焼肉を食べながらビールを飲んでも、体の中、つまり血液や体の組織の状態はほとんど変わらずにいられます。しかし、腎臓の機能が低下して正常に働かなくなった状態、すなわち、腎不全では、体に水や老廃物が溜まり、放っておけば尿毒症になり、命を脅かすこととなってしまい、人工透析か腎移植が必要になります。


B. 透析と腎移植

腎臓は尿を作り、水分や電解質の調節をする以外に、血圧やカルシウムの調節、赤血球の造成にかかわるホルモンを作るなど非常に複雑な働きをしています。

透析では水分や物質を取り除くなどの働きは代行出来ますが、ホルモン(例えばエリスロポエチンやビタミンD3 )は注射などで補う必要があります。また腎臓は24時間365日絶えず働いていますが透析はそのようなわけに行きません。

ちなみに血液透析は4時間を週3回したとしても、1週間では12時間(半日)にしかならず、1週間で押並べて見ると本来の腎臓の10%程度の働きしかしていないのです。そこで、多くの透析患者さんが腎不全による合併症で残念なことに命を落とすことになっています。

透析をたくさん(例えば、毎日!4時間!)すれば、それだけ腎不全の合併症が少なくなりますが、社会生活を送る上では大きな問題となります。携帯型の持続透析や家庭透析など、いくつかの方法が考えられていますが、多くの患者さんがその恩恵を受けるまでには至っていません。

図2

しかし腎移植では腎臓そのものが体内に埋め込まれるために本来の腎臓の働きすべてが回復するのです。ところが腎移植にもいくつかの問題があります。では腎移植の実際について述べてみましょう。


C. 腎移植の実際

  • 1.生体腎移植
  • 幸いにも健康な血縁者(両親、兄弟姉妹、子供)から腎の提供を受けることが出来る場合に限られます。ドナーから腎臓を一つ取ってしまって大丈夫であることが一番の前提になります。しかもドナーはあくまでも自主的に提供を申し出ていることが必要です。生体腎移植は、移植を行う日時を予め決められるので、十分な準備が可能です。移植に際して移植腎へのダメージが少なく、生着率(移植後腎臓が機能する割合)が高いなどの利点があります。しかし、健常人を手術により傷つけて腎を取り出さなければならず、ドナーはその後1つの腎臓だけで一生暮らさなければいけないので、本来どうしても腎臓が足りない場合にのみ行うべき移植術であると考えられます。家族内にドナー予定者がある場合は、透析病院の主治医と相談し、移植病院へ紹介してもらいます。移植病院では、レシピエントとドナーの病歴聴取、適応検査、組織適合性検査を行い、さらにドナーから片方の腎臓を取っても大丈夫かを詳しく調べます。

  • 2.献腎(屍体腎)移植
  • 不幸にも亡くなった第3者とその家族の善意により腎提供を受けて腎移植するのが献腎移植で、脳死ドナー移植と心臓死ドナー移植があります。脳死の場合、ドナーは脳障害などで脳死状態となり、腎は正常であるにもかかわらず亡くなった方となります。脳死腎ドナーとなるにはそのドナーが臓器を提供する意思を生前にはっきりと表している必要があります。心臓死での腎ドナーの場合にはドナーの家族がこれを承認する必要があります。

    レシピエント側である献腎移植希望者は、透析病院から移植施設へ紹介を受け、専門家の面接を受けた後に移植希望登録者として日本臓器移植ネットワークのブロックセンターへ登録されます。登録内容は、個人データ、組織適合性検査(ABO型、HLA型)、リンパ球交叉試験用血清の提出・保存などです。

    移植希望者のデータは、中央のコンピュータに入力され、ドナー申し出と同時に透析期間、組織適合性などの条件でレシピエントが選ばれる仕組みになっています。2017年の実績を見ると、登録者が12,449人であったのに対して、実際に行われた死体腎移植は198件とわずか1.5%にすぎません。臓器の提供があまりにも少ないことが大きな問題です。


図3
D. 移植手術

ドナー手術

生体腎移植ではドナーの片側の腎臓を摘出し、通常は機能の良いほうの腎臓を残します。摘出手術に内視鏡を使用している病院が多く、高度な技術を要しますが、従来よりもはるかに小さい傷(5~7cm)ですみ、入院期間も短縮されます。ドナーから摘出した腎臓はレシピエントの下腹部に移植され、血管と尿管を繋げます。レシピエント自身の腎臓は通常、そのままにしておきます。

生体腎移植では、手術中か手術直後から腎臓が働いて尿が出始めます。レシピエントは問題がなければ約4週間入院します。退院後は、特に問題がなければ当初週1回の通院、その後、2週間に1回の通院となり、最終的には月1回の通院となります。また、入院手術費用には保険が適用されます。


E. 腎移植術に関する合併症

腎移植では手術による合併症として避けて通れないものがあります.それが拒絶反応です。

私たちの体は外来から入ってきた異物や抗原(細菌、ウイルスなど)に対してこれを殺傷し、排除しようとする働きを有しています。これを免疫機構といい、移植された腎臓は他人のものであるため免疫機構が働いて排除しようとします。これが拒絶反応です。

拒絶反応を抑え、移植を成功させるためには免疫抑制療法が不可欠で、中止すれば移植腎は直ちに拒絶されてしまいます。免疫抑制療法に用いられる種々の薬が免疫抑制剤で現在いろいろな種類の薬が使われています。近年、免疫抑制剤は発達が目覚しく、腎移植の成績も向上しており、移植後5年目に移植腎が機能している割合が90%を越すような成績が得られています。しかし、慢性的に起きてくる拒絶反応や、移植される腎臓が1つしかなく、免疫抑制剤の副作用などから、移植腎に負荷が掛かり、徐々に移植腎機能が悪化するといった問題はまだこれから解決しなければいけません。


F. 腎移植の長所と問題点

腎臓移植の長所としては

  • 1. 透析から解放される。
  • 2. 生存率の改善
  • 3. 腎臓機能が正常に回復。
  • 4. 免疫抑制剤を飲む以外はほぼ普通の生活ができる。
  • 5. 生活の質の改善。
  • 6. 実際に掛かる医療費(自己負担ではない)は手術時と直後に多いが、安定期の費用は透析より安い。

などが挙げられますが、

逆に問題点として

  • 1. ドナーが必要、希望してもだれでも受けられるわけではない。
  • 2. 死体腎移植は臓器提供が少なく、受けられる可能性は非常に低い。
  • 3. 生体腎移植の場合、家族の提供が必要。
  • 4. 移植手術直後はリスクや負担が大きい。
  • 5. 移植後は免疫抑制剤を飲み続ける必要がある。
  • 6. 移植後の合併症の可能性。
  • 7. 移植した腎臓がだめになることがあり、その場合は透析に戻らなければならない。

などがあります。


G. 日本と海外の腎移植

アメリカでは日本の10倍以上の腎臓移植が行われています。アメリカの人口は約2倍なので、日本の腎移植は非常に少ないことがわかります。ただし、腎臓の生着率は日本の方が良いのです。今後、日本でも腎不全の患者さんの生活の質や生存率、さらに医療経済の問題を考えると腎移植がさらに増えると考えられます。しかし現在日本でのドナー不足が大きな問題となっています。

腎移植は腎不全の治療法として、充分に確立した安全な治療法のひとつであり、考慮すべきものです。興味や質問のある方は気軽にお尋ねください。


H. 移植外来と連絡先

当院の泌尿器科では月曜日に吉田一成医師が、また、木曜日には石井大輔医師、吉田一成医師、野口文乃看護師(腎移植レシピエントコーディネーター)、若井陽希医師(第4木曜)、金曜日に石井大輔医師が移植外来を行っております。また外来で管理栄養士による食事指導などもおこなっており少しでも長く移植した臓器が生着するように診療しています。

腎移植について御質問がある方や生体腎移植を希望する方、あるいは献腎移植の登録を希望される方は、代表に電話していただき泌尿器科外来までお問い合わせください。