研究活動

‘研究’は何故行うか?

 臨床医なら必ず思うことですが、患者さんの診療を行っていますと病気というものがいかにわからないことだらけか、実感します。日常の診療から浮かんでくる疑問を研究によって突き詰め、論理的な思考力を養うことでより更に優れた臨床ができるようになりますし、時には病気を治す発見につながることもあります。
 研究には、臨床現場で患者さんから得られた診断や結果を利用されていただくもの(臨床研究)と培養細胞、遺伝子や合成蛋白、また最終的に必要な際に実験動物を使用して行う基礎的研究があります。 どちらも患者さんの病気を理解し、良い治療に結びつけるために不可欠です。医療者であれば、職種に関係なく、皆さん患者さんの病気を良くしたいと思っています。他診療科や他の部署、地域の先生方、他の大学や研究施設との共同研究をさらに進めていきたいと考えています。
 ここからは私達の研究内容をご紹介いたします。 これをやってみたい、興味がある、というものがございましたら遠慮なくお声をおかけください。

基礎的研究のご紹介

1.ヒト難治性ネフローゼ症候群に対する病態解析と治療のための創薬推進
(1)ヒトネフローゼ症候群のマウスモデルの確立と疾患の病態の解析

概要

巣状分節性糸球体硬化症は難治性ネフローゼ症候群で、腎機能悪化も進行します。この病気は糸球体上皮細胞(ポドサイト)の障害から発症することが知られています。しかし、培養細胞実験も含めて病気を再現する良いモデルがないため病気の詳細を検討することは大変困難でした。我々はポドサイト間隙に発現するネフリン (Nephrin) およびその関連分子が蛋白尿の出現に重要な役割を演じていることに着目し、遺伝子免疫法という、従来とは異なる方法にて抗マウスNephrin抗体を作成しました。この抗体をマウスに投与することでヒトの病気の再現を試みており、良いモデルができています。

ヒトネフローゼ症候群のマウスモデルの確立と疾患の病態の解析

ヒトネフローゼ症候群のマウスモデルの確立と疾患の病態の解析

上記モデルがポドサイト障害で惹起されることが解析の結果からわかっています。ヒトFSGSでもポドサイト障害が基本的病態であることが提唱されていますので

  1. 発症早期のポドサイト障害を最小限にする
  2. 発症後期ではポドサイト前駆細胞(ボーマン嚢壁細胞など)を誘導してポドサイト障害を抑制する

といったアプローチを考えています。

  1. 2015年度科学研究費助成事業(若手研究B)「ネフリン障害性巣状糸球体硬化マウスモデルにおけるボーマン嚢前駆細胞の解析」.内藤正吉 (研究代表), 2015年度4月〜2017年度3月
最近の関連業績
  1. Naito S, Pippin JW, Shankland SJ. BMC Nephrol. 15, 174, 2014
  2. ポドサイト障害によるCKD研究の最前線:内藤正吉ほか「検査と技術」, 医学書院,東京,2018年1月,46(1)
  3. Takeuchi K, Naito S, Kawasima N. et al. Nephron. 138, 71-87, 2018.
(2)ネフローゼ症候群における糖脂質の機能解明と治療へ向けた創薬シーズの探索
ヒト難治性ネフローゼ症候群の発症機序、治療法の開発

概要

抗ネフリン抗体誘導性ネフローゼ症候群について、i) 発症初期における足細胞の生体膜に着目した病態発症機序の解明、ii) 新たな治療標的分子を用いた薬効評価、その作用機序や作用点の解析を行なっています。
 足細胞間隙に発現するネフリンは多くの脂質分子に取り囲まれて発現・機能しています。特に糖脂質には、膜受容体などを含む膜タンパク質機能の制御能があることが知られています。抗体障害性ネフローゼ症候群モデルにおいても、足細胞に発現する糖脂質はネフリンと重要な相互関係にあることが分かってきたため、さらに詳細な解析を進めています。また、この抗体障害に対抗するために、糖脂質を利用した新規創薬開発へ向けた研究も、学内外の大学・研究機関と共に進めています。

ネフローゼ症候群における糖脂質の機能解明と治療へ向けた創薬シーズの探索

ネフローゼ症候群における糖脂質の機能解明と治療へ向けた創薬シーズの探索

  1. 2016年度調査研究助成(公益財団法人鈴木謙三記念医科学応用研究財団)、「糖脂質を利用したネフリン・リン酸化制御機構の解明と慢性腎臓病治療薬」.川島永子 (研究代表),2016年度〜2018年度
  2. 2017年度科学研究費助成事業(基盤研究C)「糖脂質GM3のネフリン・リン酸化制御機構を利用した巣状糸球体硬化症の治療法の確立」.川島永子(研究代表), 内藤正吉(研究分担), 2017年4月〜2020年3月
  3. 文部科学省科学研究費助成事業・新学術領域・学術研究支援基盤形成「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」.川島永子(研究代表), 2018年1月〜2021年3月
最近の関連業績
  1. Kawashima N. et al. J. Biol. Chem. 291, 21424, 2016
  2. スフィンゴ糖脂質による細胞膜分子の制御機構の普遍性:川島永子, 他.
    日本生化学会「生化学」レビュー, 公益社団法人日本生化学会, 2018年2月, 90(1)
  3. 知的財産権
    「糸球体腎炎の予防又は治療剤、スクリーニング方法及びキット」
    川島永子、内藤正吉、竹内康雄 (平成29年10月27日出願:特願2017-208301)
2.骨髄造血幹細胞移植による自己免疫反応の抑制および難治性疾患治療への応用
本研究は東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センターの大津真准教授との共同研究です。

概要

自己免疫疾患を含めて多くの難治性疾患の根治的治療手段として造血幹細胞移植が有効であることが知られています。我々はマウス同種骨髄移植及び臍帯血移植を用いた造血幹細胞移植から骨髄 mixed キメリズムを誘導し,ヒト自己免疫疾患や免疫不全、先天性疾患のマウスモデルの根治的治療実験を行い、その過程での機序やヒトに治療に応用する際の問題点について検討します。対象疾患は自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス, 慢性関節リウマチ), ファブリ―病, アルポート症候群などの先天性疾患, 先天性免疫不全症等,多岐にわたります。

骨髄造血幹細胞移植による自己免疫反応の抑制および難治性疾患治療への応用

骨髄造血幹細胞移植による自己免疫反応の抑制および難治性疾患治療への応用

1. 2010年度科学研究費助成事業日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C) 「骨髄造血幹細胞増殖制御システムを用いた骨髄キメリズム導入とヒト疾患モデル治療」.竹内康雄(研究代表), 大津真(研究分担:東京大学医科学研究所幹細胞治療センター), 2010年4月〜2012年3月

最近の関連業績
  1. Takeuchi Y., Takeuchi E. et al. Int J Hematol. 102: 111, 2015.
  2. Ishida T. et al. J Exp Med. 213, 1865, 2016.
  3. Ishida T. et al. Stem Cells. Stem Cells. 35, 989, 2017.
3.腎障害における活性酸素の役割~新たな治療目標を見出すために~

活性酸素は一般に病気を進行させる悪者のように見られていますが本当にそうでしょうか? 実は活性酸素は細胞の生理機能を維持しており、臓器においてなくてはならない存在でもあります。 好中球の活性酸素産生ができなくなるヒト慢性肉芽腫症のマウスモデル (gp91phox 遺伝子欠損)では全身の炎症が抑制できなかったり、自己免疫反応が悪化したりする状態が確認されています。 従って、同マウスでは疾患によっては腎臓病が悪化することもあるのではないか?、と考えています。 我々は同マウスを使用して様々な腎障害を惹起させ活性酸素と腎疾患の関連について検討しています。

腎障害における活性酸素の役割~新たな治療目標を見出すために~

腎障害における活性酸素の役割~新たな治療目標を見出すために~

急性尿細管障害では(gp91phox 遺伝子欠損マウスにおいて病変は悪化しており、活性酸素の重要性を示す結果となっています。この機序について現在解析中です。機序が解明して腎障害進展抑制の治療に結び付けられれば、と思っています。

4.好中球Netosis 異常の是正による自己免疫疾患の発症∙進行抑制

本研究は北里大学医学部免疫学教室の竹内恵美子講師との共同研究です。

概要

細菌感染が起こると好中球が病原体を貪食し、活性酸素で殺菌します。これで間に合わず感染が広がりそうになると、好中球は食い止めようとして核内のDNAを網のように細胞外へ投げ出し、病原体を絡めとります。これをNetosisと呼びます。この現象では好中球が壊れるため核内の自己抗原蛋白が細胞外へ露出することになります。自己免疫疾患の引き金になり得るわけです。膠原病(特に全身性エリテマトーデス: SLE)や血管炎症候群ではこのNetosisに様々な異常が見られます。Netosisは活性酸素の産生状況と関連していることが報告されており、我々はこの点に着目して活性酸素の産生系であるNADPH酵素系を適正に制御することで、SLE、血管炎に見られるNetosis 異常を是正できないかと考えています。

好中球Netosis 異常の是正による自己免疫疾患の発症・進行抑制

好中球Netosis 異常の是正による自己免疫疾患の発症・進行抑制

  1. 2014年度科学研究費助成事業日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C) 「p40phoxsiRNAによる好中球NET放出抑制が全身性エリテマトーデス (SLE) の進展に与える治療効果」.竹内康雄(研究代表), 大津真(研究分担), 竹内恵美子(研究分担), 2010年4月〜2012年3月
  2. 2017年度科学研究費助成事業日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C) 「好中球NETの酸化ミトコンドリアDNAは慢性肉芽腫症の自己免疫性炎症を増悪するか」.竹内恵美子(研究代表), 大津真(研究分担), 竹内恵康雄(研究分担), 2017年4月〜2020年3月